蜻蛉は帰ってこなかった 一二話

 大会が終わって、放心したまま俺たちはずっと琵琶湖を見ていた。

 後ろを誰か通る度に、かきもんが笑いにきたんじゃないかと思って振り返った。でも、あいつが来る事は無かった。

 「ああ、もうちょっと飛びたかったなあ」

 「来年は、必ず戻ってきます」キヨが言う。

 「期待してる」まりなんは真っ赤に目を腫らして、声も涙がかっている。

 浜辺に飛行機の破片が流れつくのが見えた。主翼のリブだ。思い切り飛べなかった思いが波間に揺れているように見えて、尚更、やるせない気持ちになった。

 江森が波打ち際まで歩いていく。流れついたリブを拾い上げて振ってみせた。

 「俺らのじゃねえわ」

 溜息が漏れる。

 結果は結果。今更どうにもならないのは分かっているけれど、色々考えてしまってやるせない。

 せめて旋回だけでも成功させることが出来れば。

 スタートラインに到達することだけでも出来れば。

 テストフライトはあんなに全部うまいこと出来たのに。

 そんな、未練。

 多数決の時の自分がロングフライト部門に票を入れていたら変わっていたのかもしれない。

 そうじゃなくても、どこかで違うやり方をしていればもっと飛べたかもしれないという。

 そんな、後悔。

 去年までの書類審査に落ちたり、通っても台風で飛べなかったり、という。

 不遇。

 来年は、そんな思いを全部背負って後輩たちが必ず飛びきってくれるはずだ。


            「蜻蛉は帰ってこなかった」【完】

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