EX-3 八雲くるみは負けたくない?③
陸上部では私は月夜先輩と太陽先輩の2人と一緒にいることが多い。
太陽先輩は陸上部として活動しているのだが3年になってからは主に後進のフォローやマネージャーの手伝いをするようになった。
元々太陽先輩は特進科の人だし、みんなを支えたいという意思を尊重した結果……だけど、私は正直信じていない。
なぜなら……。
「月夜……ちょっと」
「もう! くるみちゃんに気付かれちゃいますよ。こんなとこで触っちゃ……やん!」
「大丈夫だよ……この位置だと見えないから。もっとさ」
「……もうえっちなんですから」
「そんなこと言いつつ喜んでるじゃないか」
「だって好きなだもん」
先輩達が私にバレないようにイチャついている件。
さっきからチュッチュッうるさい。聞こえてるんすよ!
5月の騒動があるまで太陽先輩と月夜先輩は交際を隠していた。
私には隠れているようにはまったく見えなかったけど、本人達は全力で隠していたのだ。
部室で隠れてキスし合っているの何度も見たけどね!
太陽先輩に好きになってもらうためにこの部活に入ったけど、この2人の先輩が尋常じゃ無いほどお互いを愛していることにびっくりしていた。
正直浅い付き合いしかしたことのない私からすれば羨ましかったりもする。
なので即後ろを振り向いた。
「先輩達は何してるんですかぁ?」
笑顔で聞いてみる。
二人抱き合って今にもキスしようとしている先輩達は時が止まったように固まる。
太陽先輩の口が動く。
「た、立ち人工呼吸だよ……」
「そうなんですか!」
そんなわけねーだろと思いつつも詳しく聞いても何のメリットもないのだ。
とにかく私にできることは……2人の邪魔をする……だけなんだけど。
「くるみちゃん、いいかな?」
太陽先輩が他の陸上部の先輩と話している間、月夜先輩が私に話しかけてくる。
「くるみちゃんって結構恋愛経験豊富なんだよね?」
「まぁ……人並み以上はあると思います」
中学時代は10数人くらいから告白され、数人と交際してきた私は他の人に比べて交際経験豊富と言ってもいい。
月夜先輩からはわりとこのような相談をされる。
「それで何を聞きたいんですか? くるみちゃんが何でも答えてあげましょー!」
「ほんと! じゃあ屋外でやるえっちのことなんだけど」
私は聞いた瞬間前述の発言を後悔した。
「ちょっと待ってください。何言ってんですか。もう少しまともなこと言ってください」
「わりと真面目な話なんだよ! 最近マンネリ化してるような気がしてね……」
「もう面倒くさいし、裸で四つん這いになって公園内を歩いたらどうですか」
「……」
「もうやってるとか言わないですよね!!?」
バカみたいなことをみたいに言われるが、バカと言いたいのは私の方である。
太陽先輩と月夜先輩が交際して4ヶ月近く経つと聞く。
確かに慣れてくる時期ではあるけど……この2人って初々しそうに見えて相当にやってることがぶっ飛んでいる。
「えっちなこと以外では普段何してるんですか……?」
「うーん、この前の土曜日は2人でのんびり過ごしたよ」
「あ.映画とか見てた感じですか?」
月夜先輩は首を横に振った。
「お互いの顔をずっと見合ってね、時々チュ! ってしてたの! するといつのまにか8時間くらい過ぎてたんだよ」
ぶっ飛んでるというよりちょっと頭が……って気がしてならない。
先輩ゆえに私は我慢なのだ。
「前、抱きしめられるのも好きって言ってましたよね。そんなにいいものなんですか」
「とっても暖かいよ~。それに太陽さんと私って体の相性が良くて……毎日が充実してるっていうか」
私もそれなりの経験はしているので体の相性と言われるとちょっと興味が出てくる。
痛いよりは気持ちいい方が良い。
ちょうど太陽先輩がこっちに戻ってきた。
「太陽先輩!」
「ん? 八雲さん、どうしたの?」
「良かったら私を抱いてくれませんか」
「ブフッ!」 「ごふっ!」
太陽先輩と月夜先輩は吹き出すが気にしない。
「くるみちゃん、何言ってるの!」
「も、もっと自分を大事にしなさい」
「えー、だって月夜先輩、週7でヤってんでしょ。いーじゃないですか」
「そんなにやってません! 精々週5!」
週5もやれば十分でしょ。太陽先輩が月、火と精根尽きた顔してるから日曜とかすごいことなってんだろうなと思ってた。
「あの……2人とも何の話してんの……?」
「超絶淫乱性欲魔人の月夜先輩のことについて」
「ああ……」
「ああってなんですか! 太陽さんもいつもノリノリじゃないですか!」
顔を紅くした月夜先輩が太陽先輩に詰め寄る。
月夜先輩も自分の性欲が人一倍あることを意外に気にしている。
あんなドスケベな体してるんだからいい加減認めればいいのに……。
手足とかくっそ細いのにFカップってなに? あんなに大きくて柔らくて感度のいいおっぱい初めて見た。
更衣室で触らせてもらった時思わずは鼻血出しそうになりました。
さて、助け船を出しますか。
「太陽先輩はどんな話をしてたんですか?」
「そ、そうそう、それを言おうと思ってたんだ」
太陽先輩は月夜先輩を何とかなだめて、運動場の方へ体を向ける。
「僕の引退試合が決まったんだ」
太陽先輩は3年生。夏が来れば引退してしまう。
正直な所、入部してからほんの3ヶ月……あっという間だった。
「分かっていたけど寂しいですね」
月夜先輩も少しだけ寂しそうなそぶりを見せる。
「僕が引退してもできれば2人には続けて欲しい。……せっかく部員が増えたんだし」
「ほとんど月夜先輩目当てですけどね」
今年の1年生で陸上部に入る人が一番多かったらしい。
2,30人ぐらいいたんじゃないかな。まぁ、月夜先輩の交際相手発覚とかで結構辞めていったけど。
「私は残るつもりですよ。慣れてくると結構楽しくなってきましたし」
月夜先輩は残る意思を示した。
私はどうだろう。太陽先輩に近づくために入部して3ヶ月。
月夜先輩が側にいたせいで近づくことはできない。
そもそも太陽先輩は月夜先輩にしか眼中にない。私……に出来ることは……。
「じゃあ陸上部に残るかわりにお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「うん、僕にできることなら何でも!」
「じゃあキスしてください」
「え」
太陽先輩から変な声が出た。
「ややや、無理だから! 僕には……月夜がいるから!」
「くるみちゃん! そーいうのは駄目だと思う!」
「えー! 月夜先輩ばっかずるい。太陽先輩の唇は気持ちいいとか、体の相性がいいとか、あそこがデカイとか自慢してくるじゃないですか!」
「月夜! 何話してんの!?」
「いや、その……」
今度は月夜先輩が逆に詰め寄られる。
太陽先輩が好きすぎる月夜先輩の話題はほんとそればっかりである。
月夜先輩が近づいてきた。
「太陽さんにキスするのは絶対駄目! それだけは駄目なの!」
「じゃあ、何ならいいんですか?」
「……だったら、太陽さんとキスする私とキス……する? なんて」
「じゃあそれで」
私は逃がさないように両腕で月夜先輩の両手を掴み撮り、一気に唇を押しつけた。
月夜先輩は冗談のつもりだったのかもしれない。
だけど、先輩の柔らかそうな唇に吸い付いてみたかったのだ。
良い時間は長くは続かない。
すぐさま月夜先輩に距離を置かれてしまう。
「太陽先輩、月夜先輩の唇……気持ちいいですね~」
「ええ? つ、月夜、大丈夫?」
月夜先輩はぺたりと腰を抜かしてしまっていた。
「……女の子にこういうことされたの初めてだよ……。ちょっとクラって来た」
月夜先輩は口を拭きながらも頬を紅く染めている。
「じゃあもう一回しましょう。私、月夜先輩なら女の子でもOKです」
「ちょ、八雲さん、み、見てる分には構わないけどそれ以上はダメだよ!」
今度は太陽先輩が焦ったように声を荒くする。
月夜先輩の男嫌いは周知の事実。なら女の子なら?
意外にガードが緩いのだ。
「月夜にキスするくらいなら……僕がしてあげるから!」
「きゃーー! じゃ太陽先輩、私とキスしましょ!」
「もうくるみちゃん、だから駄目だって!」
腰を抜かした月夜先輩が立ち上がり、迫ってくる。
それに反応して月夜先輩の方を向き、唇をつぐんで迫ってみたらさすがの月夜先輩も怯えて腰が下がった。
2人だけの世界に入ってしまう太陽先輩と月夜先輩。
誰にも入り込めない世界に私は入っていくのだ。
2人の仲をかき回して大好きな太陽先輩と月夜先輩の視線を私に釘づける。
そうすれば構ってもらえる。2人の愛を私も受けたい。
それこそが……私の1番の目的なんだ。
「私は先輩達が大好きです!」
「八雲さんには敵わないな……」
「恐ろしいライバルです……」
大好きな先輩達といつまでも……一緒にいたい。
だから八雲くるみはまだまだがんばります!
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