EX-1 月夜のお宅訪問③(4月上旬)
外でのんびり時間を潰していたら彗香から戻ってきていいという連絡が来た。
言われた通りにお茶っ葉とお菓子を買って家へ戻る。
リビング、いや台所の方から笑い声が聞こえた。
中を覗くと台所で母と月夜が一緒に何かを作っていた。
揚げ物にハンバーグの仕込みをしている。
リビングのソファに彗香が座っていた。
「あれを見る感じ……問題なかったのかな」
「うーん。まー、おにいの昔話で盛り上がったからね~」
テーブルには僕の小学、中学の卒業アルバムや小さい頃に撮った写真が並べられていた。
これを話題の1つにされてしまったんだろうか。
恋人にコレを見られるのは結構恥ずかしいんだが……。
「あ、太陽さんお帰りなさい」
「ただいま。晩ご飯を作ってるのかな?」
「そうですよ~。今日はいっぱい作りますから楽しみにしててくださいね」
「そっか」
楽しそうな月夜が可愛くて、僕はゆっくりと月夜の栗色の髪を撫でてあげる。
月夜は嬉しそうに身をすくめた。
「あ、お義母さん~。お皿洗っちゃいますね~」
「ん? お義母さん?」
「はい! お義母さん、料理が得意だからすごく勉強になります。今度教えてもらいにこないと」
月夜と入れ替わりに母さんがリビングに出てきた。
「おいおい、月夜に母さんって呼ばせたのかよ」
母さんは月夜のことをちらっと見る。
「彼女の家庭のことは少し聞いたわ。兄妹で必死に生きてきた子だから……、これで気が少しでも軽くなるんならね」
星矢と月夜が小学生の頃に両親が蒸発したと聞いている。
今も行方が分かっていないそうだ。星矢は実の両親を恨んでいるが、月夜はどちらかというと寂しい気持ちの方が強いと聞いている。
母さんをその事情を酌んでくれているのかな。
「家事も得意だし、しっかりしてるし、早く結婚して身を固めなさい」
「まだ17歳になったばっかだっつーの」
どっちだろう。息子の恋愛危機を察して月夜を取り込もうとしてるだけなのかもしれない。
でも……。
「月夜ちゃん、そこのお皿取ってくれる?」
「分かりました!」
これなら安心かな。
◇◇◇
「ただいまー」
夜19時を過ぎて……一家の大黒柱が帰ってきた。
出迎えるのは当然……。
「おかえりなさい!」
「おわっ!?」
あの人は僕の父です。
急に現れた超絶美少女に唖然している。
母や彗香がその様子を楽しそうに眺めている。
さてと初顔合わせだし、フォローしておこう。
「おかえり父さん。このコが……恋人の月夜。朝、話したろ?」
「あ、ああ」
「神凪月夜です。これからも宜しくお願いします」
月夜の笑顔に父もほわーっとなるがすぐに僕に向かって手招きした。
面倒だけど側に寄る。
父さんが月夜に聞こえないよう小声で話を始める。
「なんだあのかわいい子は! さすがにびっくりしたぞ! お金とかで雇ってるんじゃないだろうな」
「自分の息子を信じろよ。父さんだって星矢は見たことあるだろ? あいつの妹だよ」
「ああ……あのイケメンアイドルグル-プにいそうな子か。確かによく似ている」
父さんも星矢には何度か会っている。
僕が去年の夏に入院した時、あとこの家に泊まりにきた時にも確か会っていたはずだ。
「えーと月夜さんだったかな? ウチの息子が世話になっとります」
何で敬語なんだよ……。
まー父さんもモテる方ではなかったと言っていたからな。若い子慣れをしていないのかもしれない。
父も着替えてリビングの方にやってくる。
これで家族一同勢揃いだ。今日のために母と月夜がたくさん料理を作ったのでテーブルには肉、野菜、各種揃っていた。
「月夜ちゃん、おとーさんについであげてくれるかい?」
「分かりました。ビール注ぎますね、お義父さん!」
「いや~、悪いね~。お義父さんだなんて……こんなカワイイ娘さんが出来るなんてなぁ」
おーい、娘がいる前でそれを言うなよ。本当に父は月夜の可愛さにメロメロだ。
ある日当然自分の息子が超絶にかわいい恋人を連れてきたんだ。僕も子供が出来たらそう思えてくるのだろうか。
普段はどこにでもいる4人家族の家庭に月夜という1人の女の子が増えたことにより大きく盛り上がった。
妹も母も父も……月夜を気にいってくれている。
本当に良かった……。連れてきて正解だったな。
夜の21時を回った頃、さすがに遅くなったので月夜を帰すことになった。
「泊まっていってもいいんだよ」
母の言葉に月夜は首を横に振る。
「兄が……明日、朝からバイトなのでちゃんとご飯を作ってあげないと……。次の機会にお泊まりさせてください!」
「うぅ~いい子だねぇ」
当然夜も遅いので僕が月夜を送ることになった。
玄関で妹、父、母が見送りに来る。
「んじゃ来週ね」
「うん、またね彗香ちゃん」
妹とも軽く話をして、玄関の扉を開く。
その時……父が声を出した。
「月夜さん」
「はい?」
月夜は呼ばれて振り向く。
「兄妹2人暮らしで大変だろう。もし大人が必要な時は……いつでも我々を頼りなさい。お義父さんと言ってくれて嬉しかったよ」
「ええ、本当よ。いつでもいいからまた来なさいね」
「……あ」
月夜の瞳から一滴の涙がこぼれ出す。
月夜は手で涙を拭い困惑したようなそぶりを見せた。
僕はそんな月夜の肩を抱いて、落ち貸せるように側に寄る。
月夜は涙の跡を残しながらもぐっと笑顔を見せた。
「……ありがとうございます。……私、お義母さんとお義父さんに今日会えてよかったです!」
◇◇◇
「ステキな人達だったな」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
夜も更け、かなり寒くなった帰り道、僕と月夜は手を繋いでゆっくりと神凪家へ向かって歩く。
「彗香ちゃんとも約束したし、お義母さんに料理を教えてもらう約束もして……お義父さんは……またお酌しようかな」
「父さんの件は忘れてもいいけどね」
「太陽さん」
「ん?」
「あんなに暖かい家族の元で太陽さんは育ったんですね。だから……太陽さんは明るくて、素敵なんだな……って思いました」
「買いかぶりすぎだよ」
そうやって褒められてると思わず照れてしまう。
「だから私は……太陽さんの家の人達と家族になりたい。私も……家族の1人になりたいです」
「うん、母さんも言ってたじゃないか……いつでも来いって」
月夜は首を横に振る。
「そうじゃなくて、だから……だからね」
月夜は強く、僕の手を握る。
「太陽さんと結ばれたい。早く……身も心も……あなたと生まれたままの姿でふれ合いたい」
月夜は少し顔を紅く染め、言葉を大にした。
僕は1度目を瞑って……考える。
月夜と交際を始めてもうすぐ2ヶ月。そろそろいい頃だよな。
いろんな邪魔が入ったけど……そろそろ決着をつけないといけない。
「月夜……明日空いてる?」
「……はい」
「友人から聞いたんだ。年齢確認も無くて、安いホテルがあるって。そこなら誰の邪魔も入らない。だからさ……」
その時僕の言葉を塞ぐように……月夜から唇を奪われる。
そのまま強く月夜を抱きしめて、朝ぶりのキスで互いを感じ会う。
唇を離して……月夜と僕は互いを見合う。
月夜の唇が動いた。
「私のはじめてを……奪ってください」
次の日、僕と月夜は……交わり……身も心も結ばれた。
※本章はこの話で終わりです。この交わった話はまたどこかで……。
明日からは別のお話を更新致します。
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