EX-1 月夜のお宅訪問②(4月上旬)
月夜との濃厚なキスを母と妹に見られてしまい、月夜と母の初顔合わせは何ともいえない雰囲気となってしまった。
「……あぅ」
月夜は耳まで真っ赤にさせた顔を両手で隠している。
リビングのテーブルに僕と月夜が横並びに、対面には母と彗香が座る。
キスが盛り上がるのはよくあることだがちょっと気まずい。
僕も妹も何と口を出していいか……。そんな時、母が声を出した。
「彗香、4人分のお茶を入れてくれる?」
「うん」
「月夜さんだね。ようこそ我が家へ。……歓迎するよ」
「あ、はい!」
月夜は慌てて手を外し、まだ赤みの取れない顔で立ち上がった。
「か、神凪月夜です! 太陽さんとお付き合いさせて頂いています。これよかったら食べてください」
「あら、お土産なんて悪いねぇ。ふふ。真面目な子ね。座ってていいよ」
母さんに落ち着くように言われ、月夜はゆっくりと椅子に座る。
その内に彗香がお盆に置いた4つのコップをテーブルの上に置いた。
「この子の付き合う彼氏なんて絶対土産なんて持ってこないし」
「別にいーじゃん」
彗香も2,3回彼氏を連れてきていたっけ。
さすがに父さんのいない時だったけど、ラフな感じの方がよかったか。
「それにしても……」
母さんが月夜をじろじろ見る。
「ほんとお人形さんみたいにかわいい子だね。モデルかアイドルかと思ったよ」
「初めて会った時はメイド服着てたからね。おにいの趣味だけど」
「おい、余計なこと言うな!」
月夜がこの家に来たのは2回目だ。
僕の趣味嗜好でメイド服を着せてご奉仕してもらってる所を偶然帰ってきた彗香に見られてしまったことが後に何度もいじられるようになってしまう。
「でも星矢くんの妹って聞けば確かに……って感じするよね」
「あ、兄も来ているんでしたか。兄妹揃ってご迷惑を……」
「何言ってんだい。星矢くんなら私も彗香も大歓迎だよ。ウチの息子と入れ替えたいくらいだね」
「そうだね。おにいいらないから入れ替えちゃおうよ。ねっ月夜」
「太陽さんが私の家に来てくれるなら大賛成!」
「おーい、とんでもないこと言わないでー」
男1人だとアウェー感が強い。
そもそも山田家は父と僕の意見は封じ込められてしまうのだ。
「しっかし太陽に彼女が出来るなんてねぇ。中学、高校と女の子の影がまったく無かったのに……」
自然と僕の話題になってしまう。
本当は気恥ずかしいからやめてほしいけど、月夜と母さんがうまく喋られるようになるためには仕方ない。
「でも私は女の子の影がなくてよかったと思います」
月夜は僕の方を向き、微笑む。
「太陽さんを独占できましたし、こうやって恋人にしてもらったので大満足です」
「太陽、あんた絶対この子逃したら駄目よ」
「月夜逃したら一生独身と思った方がいいよ、マジで」
言われなくても分かってるがそんな真剣に言われるとなんとも言えない。
「ほんと月夜っておにいのこと好きだよね」
「えーだって太陽さんって顔が良くて、頭が良くて、強くて、みんなを取りまとめていて」
「私にそんな息子いたかしら……」
「同意だけど、おい母親」
月夜は変わらず僕を立ててくれる。ありがたいんだけどそんな過剰に立てる必要はないんだけどなぁ。
でも心底そう思ってくれてるのだから気恥ずかしい。
「あ、彗香ちゃん、来週は大丈夫なんだよね?」
「おっけー」
月夜は僕の方を向く。
「来週彗香ちゃんと4人で遊びにいくんですよ」
この4人とは月夜と同学年で幼なじみの世良さんや瓜原さんのことだ。
それに彗香が入るのか。
「海ちゃんや木乃莉も楽しみにしてました。太陽さんの恥ずかしい昔話を教えて欲しいって」
「お、まかせて! おにいのことならなんでも話してあげるから」
「そっから各方面に拡散されんだからほどほどにしてくれよマジで!」
僕のプライバシー!
恋人と妹の仲が良好なのは喜ばしいことなのに何だか追い詰められてる気がする。
「それで2人のなれ初めを教えてもらおうかな」
「えーっと……」
月夜がちらりと僕を見る。僕は話を進めるように頷いた。
まぁ……仕方ないか。
後の展開がどうなるか……想像がつくんだよな……。
月夜が去年の夏の時期からの話をする。
一緒にデートにいったり、夏祭りに行ったり、文化祭や体育祭、もちろん……月夜が迫ってきた時のことは話していない。
「はぁ……情けないわね。そういう所、ほんとお父さんそっくり」
母は呆れた声を出す。
僕は月夜の好意に向き合わなかったことに対しての発言だ。
まぁそう言われても仕方が無かった。
母さんが立ち上がり、居間の方へ行く。
居間の方から財布を取り出してお札を僕に渡した。
「ちょっとお茶っ葉買ってきて」
「え、何も今じゃなくても」
「ヘタレは少し頭を冷やしてきなさい」
母さんにそそのかされるように玄関へ行く。
月夜を残すのがかなり心配なのだけど……。
ひょこっとリビングの方から彗香が顔を出した。
「まっ、女同士で少し話をしたいんだよ。戻っていいタイミングでメッセージ送るし」
「……そういうことか」
「私もいるし、悪いようにはならないよ。ヘタレはさっさと行ってくれば」
クソ妹め……。
だけどここはその好意に甘えさせてもらおう。
一応月夜のスマホには何かあったら連絡するようにメッセージは入れてある。
「……どこで時間潰そうかな」
僕は家を出た。
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