143 映画館

「おそーい!」


 僕はスマホで時間を見る。約束時間の15分前だよね。

 遅いと言われる筋合いがまったくないよね。 

 そんなセリフを言うのが長い金髪を輝かせながらも帽子とサングラスで変装したスーパーアイドル、天野日和あまのひよりことひーちゃんだ。


「や~まだのくせにひーちゃんを待たせるなんて」


 仕事場から直接この待ち合わせ場所に来たため早く着いたようだ。相変わらず無茶苦茶だけど、それがこの子の性格だ。


「おはようございます~」

「おはよー」


 今回この集まりのメンバーである月夜と北条火澄ほうじょうかすみさんがやってきた。

 10分前だから何の遅刻もないね。


「まったくひーちゃん主演の映画を見に行くのに3人しか集まらないなんて弛んでるわ」

「あれ、ひーちゃん助演って言ってなかったけ。ヒロインの友達役って」

「ひーちゃんが出る時点でそれはもう主演なの。理解なさい」


 そんな馬鹿な。

 というわけで今回はアイドルのひーちゃんが映画に出演ということでグループでも話題になっていた。

 昨日の夜遅くにひーちゃんが急遽休みを取れたためお忍びで映画見にいくから付き合えってのがグループチャットで流れたのだ。

 それに応じたのが僕と月夜と北条さん。昨日の夜の募集でよくこれだけ揃ったもんだよ。


「北条さんもよく体が空いてたね」

「もともと休養日だったんだよ。じっとしてたら体を動かしたくなるし、ちょうどよかったよ」


 今日は創立記念日で平日なのだが学校は休みなのだ。

 そのため映画館の席もこの時間ならかなり空いているだろう。


「じゃあ行くわよ」

「あ、ひーちゃん待って」

「ふがっ!」


「太陽さん、今のうちに」


 出足をくじかれるひーちゃん。最近バラエティばっかり出ているから芸人アイドルみたいに言われているよな。

 月夜は僕の腕に絡みつく。ああ、そういうことか。

 僕は月夜の栗色の髪に触れ、いつも通りに月夜の唇にキスをする。


「ちょっ!」

「あ、あんた達!」


 ひーちゃんや北条さんから声が上がるが気にしない。


「も、もっと……」


 今日の月夜は欲しがり屋さんだな。2回、3回とねっとりと唇を押さえつけてあげた。


 月夜の唇から離れ、恋人繋ぎとして僕と月夜は移動できるようにする。

 月夜は声をあげた。


「ごめんねひーちゃん。いつでもいいよ!」

「いくないわよ!? 朝から何やってんの!?」

「え、これから2時間映画見るんでしょ? 太陽さんのエナジーを吸収しておかないと私もたないもん」


「なにそれ」

「キス魔の理論だよ」


 呆れる北条さんの声に僕は回答した。


「これでチャージ完了。いつでもいけます」

「ニコチンみたいなこと言わないでよ」


 笑顔の月夜に北条さんは苦笑いを浮かべていた。



 ◇◇◇



 僕達がよく来る映画館はモール街にあるような大規模な物ではなく、小規模の映画館が街外れにある。

 話題作の上映も多いわけではないが、見たい映画が上映されているならここに来た方が安くて、空いている。


 思ったとおり映画館のシアタールームは非常に空いていた。というより僕達4人しかいない。


「映画大爆死?」

「違うわよ。たまたま!」


 冗談はさておき、独占できるならそれに越したことはない。

 チケット通りの順番に座る。画面に向かって右から北条さん、月夜、僕、ひーちゃんだ。

 数分の広告宣伝と共に映画が上映された。


 確か恋愛漫画の映画化だっけ。ひーちゃんは高飛車な女の子役。ヒロインの友人で主人公が好きらしい。

 イメージぴったりじゃないか。確か終盤にひーちゃんの役の子が主人公に告白して振られるってシーンがあるんだよな。

 その演技が好評だったらしい。


 漫画の実写化なんてと思っていたが意外に面白い映画じゃないか。


「ん?」


 ふと右手が何かと当たる。どうやら月夜の左手と当たってしまったようだ。

 僕は右を向くとちょうど左を向いた月夜と目が合う。暗くてもやっぱりかわいい。

 僕と月夜は手を組み合わせて恋人繋ぎをする。


「太陽さん……やっぱり」

「仕方ないな」


 映画の恋愛シーンを見てるとちょっと恋愛したくなるよね。月夜も僕も手をつなげたまま少し体を乗り出して互いの唇を合わせた。

 少しだけ舌も絡めて、お互いを感じ合う。

 ふぅ……平日は下校の時くらいしかできないからね。昼間から愛せるのは大きい。


「ここは距離があってやりづらい」

「こっち来る?」

「そうします」


 月夜は立ち上がって、ごく自然に僕の足の上に乗った。


「ちょちょちょ、いきなり何やってんの!?」


 北条さんが気づいてこちらに声をかけてきた。


「火澄先輩、席空きましたよ」

「いや、そこあんたの席だろ。2人して何してんの!?」


 僕は構わず月夜を抱き寄せて自分の胸元へ運ぶ。


「にゃ~」

「月夜は柔らかいなぁ」


「さすがにまずいって! ねぇ!」

「僕達しかいないし大丈夫だって」

「あんたは黙ってろ! ったく、まわりを気にしてよ!」


 北条さんは手を顔に当てて背ける。北条さんも純情な方だから苦手なのかもしれない。


「うるさいわね。ほら、あんた達ってつーちゃん何してんの!?」


 ひーちゃんは今気づいたようだ。

 月夜は構わず、僕の方を向いて、僕の唇を奪う。


「ん……んぐっ!」

「まだキスシーンは始まってないって!」

「そういうことじゃないでしょ」


 ひーちゃんや北条さんが何やら話しているが気持ちよすぎて考えることを放棄したい。

 月夜の体を両手で抱き留め、月夜の温かさを唇を通して感じる。

 何度かキスをして頭を離す。


「こんなに暗いと……変になりそう」

「僕もだよ、月夜」


「今、ひーちゃんの名場面だからちゃんと見てよ!」

「太陽さん、私だけを見て」

「分かった」


「こらぁ! こんなかわいいひーちゃんを見ないとかありえないでしょ!」


「太陽さん、ひーちゃんと私、どっちがかわいい?」

「月夜以外どうでもいい」


「ぶんなぐんぞコラァ!?」


「もう帰りたい……」


 月夜と暗闇の中、イチャイチャしてるといつの間にか映画は終わっていた。

 2時間ってあっという間だったな。

 ん? 中身? 全然覚えてない。


 この後、北条さんとひーちゃんにめちゃくちゃ怒られた。

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