140 風邪引き姫にできること②

 

 それから数時間が経ち、手を握りっぱなしだとトイレに行けないので時々は離していた。

 でも基本的には月夜の側からは離れないようにしている。学校は休み時間だろうか、グループの面々からメッセージが送られてきた。みんな月夜が心配なんだな。


 正直な所、暇すぎる。たまに可愛すぎる月夜の顔じっと見ていたりしていたがなかなか時間というのは進まない

 月夜の部屋の棚に置いている本を手に取り、時間潰しに読んでいた。


「ん?」


 ミュージックプレイヤーが見える。そういえば吟画ぎんが山で撮った僕の音声があれに入ってたんだっけ。立ち上がって手に取った。

 冬に見た時は2000近くの再生回数だったけど……今どれだけ増えているんだろう。まぁ交際したからさすがにあれほどの伸びは……。


「4156再生……」


 1日20回以上聞かないとこの数値にならないよな。


「み、見ないでください!」

「おわっ!」


 いきなり叫ばれてびっくりした。

 月夜が起きたようだ。僕は慌ててミュージックプレイヤーを元の場所に戻す。

 月夜は紅くなっているが……でも熱はかなり下がったようだ。声に力が入っている。


「彼氏だからってプライベートのチェックは駄目です」

「わ、悪かったよ」


 月夜の寝ているベットの横にぺたんと座る。月夜のピンクのパジャマと同じくらい頬を紅くしてぶつぶつ言っていた。


「あのボイス、そんなに聞いてるの?」

「太陽さんの声が好きなんです。好きな人の声を聞いていたいのは当たり前じゃないですか」


 当たり前かな。僕、月夜の声大好きだけど……データとしては持ってないぞ。

 今度録音させてもらおう。


「朝起きた時、ごはんを食べる時、勉強するとき、寝る前に、1人でする時……」

「1人でする時?」

「……ちちちちち違いますから、私、えっちな子じゃないし!」


 そんな自爆しなくてもいいよ。

 自分の声が使われるのは恥ずかしいが……男だってやってることは一緒だしな。そこを追求するのはやめておこう。


 ぐぅぅぅぅ……なんて音が月夜のお腹から鳴る。

 当然月夜はお腹を押さえてしまった。恥ずかしそうにしてる姿もカワイイ。


「うぅ……また腹ペコキャラって思われてしまう」

「ずっと思ってたから今更だよ!」

「ひどい!」


 月夜の部屋から離れて、キッチンに足を運ぶ。

 あらかじめ準備していたレトルトおかゆの封を切って鍋に入れる。

 卵ぐらい入れてあげようか。

 月夜ほど美味しいおかゆはできないだろうけど……。


 出来たおかゆに塩などトッピングをして、器に移して月夜の元へ持って行った。


「おかゆできたよ」

「ありがとうございます!」


 僕も弁当を食べるかな。


「何かしてほしいことがあれば言っていいよ。今日は月夜のためならできること何でもするよ」

「ほ、本当に何でもしてくれますか?」

「まぁ全裸で野外とか、ポルノ写真とかはやめて頂けると」

「わざと言ってるでしょ、もう!」


 からかうように声をかけて月夜を明るくさせてみる。

 この感じだとひどい風邪ではなさそうだな。

 月夜はお盆に乗せたおかゆを僕に渡した。


「食べさせてください」


 仕方ないなぁ。

 レンゲを使って、おかゆをすくう。かなり熱いので軽く息を吹きかけて、冷まして月夜の口元に持っていく。


「あーん」


 月夜の口の中にレンゲをいれてあげた。

 レンゲの中のおかゆを全て吸い取り、やはり熱かったのか顔を別の方へ向けて悶えた。

 次の1回分を用意するか。


「熱い……。でもいい塩加減でおいしいです」

「おかゆはそんなに作ったことがないから上手く出来てよかったよ。はい、2回目」


 もう1度のレンゲを月夜の口へ入れていく。

 これを何とか繰り返して、食事は終了した。

 あらっ。


「月夜、口元にごはんがついてるよ」

「ほんとですか? 取ってください」


 僕が手で取ろうとしるとその手は払われた。


「ちゃんと取ってください」


 月夜は少しだけ口を突き出した。

 ……口で取れということか。まったく……もう。

 僕はお盆を床において、目を瞑って待つ月夜にゆっくり顔を近づける。

 あの誕生日の時に月夜がやってくれたように……僕は月夜の口元についたごはんつぶを吸い取り、そのままその場所に唇をつけた。

 うん、思ったより恥ずかしいなぁ。


「うへへ、じゃあ次は」

「まだあるのか……」

「飲みものが飲みたいです」


 だったら星矢が用意してくれたスポーツドリンクのペットボトルがそこにある。

 手に取り、月夜に渡すとそれも手を交差させてNGにされてしまった。

 また、月夜は唇を突き出す。


「く、口で?」

「はい!」


 そ、それはどうなんだろう。

 いや、月夜が望むならいいだろう。僕はペッドボトルの蓋を開けて、中のスポーツドリンクを口に含む。

 そのまま月夜の唇を通じて、ドリンクを行き渡らせた。もちろんそれで終わるわけがない。

 口移しをしてそのまま舌を絡め合い、濃厚な方のキスを続ける。

 気分が昂ってしまうとどうしてもこうなってしまう。


「ふぅ……」

「満足ぅ」


 結局3回ほど口移しをさせられた。僕の方が気疲れしちゃうんだけど……

 満足した月夜はにっこりと笑う。でもまだ少し熱っぽい。

 うーん、どうするのが1番なんだろう。

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