139 風邪引き姫にできること①
3月が少し過ぎての平日。
朝、僕はいつも通り神凪家へ到着する。まだ他の面々は来ていないようだ。寒いし、先に入らせてもらおう。
合鍵を使って神凪家へ入る。玄関で靴を脱いで中へ入ると……非常に珍しく、星矢がリビングで寝ていなかった。
あれ、月夜の部屋の扉が開いている。
中をのぞいてみると星矢がタオルに水をつけて、寝ている月夜の額に置いてあげていた。
「星矢、どうした?」
「ああ、風邪だな」
ベッドの上で休んでいる月夜。顔が赤くなっており、苦しそうだ。
そういうことか……。さすがの星矢も妹のことになるとちゃんとしている。
そうこうしている内に水里さんや世良さん、瓜原さんもやって来た。
続々と部屋の中に入ってくる。
大事なことにならなければいいが……。
「学校はどうする?」
「俺は休む。妹を放ってはおけない」
「でも星矢くん、今日は生徒会の会議があるんじゃ」
そうだな。今日は確か来年度のことで大きな会議があるって言ってた。
教師陣も交えて話をするようで星矢も重要なポジションとなっているらしい。
「分かっている……」
星矢も心苦しいな。妹は大事だし、生徒会も手放しにすることができない。
……そうなったらこれしかないか。
「星矢、学校に行け。僕が月夜を見る」
「だが!」
「月夜が心配なのは僕も一緒だよ。星矢にしかできないことは星矢がやった方がいい」
◇◇◇
少し渋られたが何とか押し切った。
1日授業が遅れるのは痛いが星矢と水里さんが手助けしてくれるって言ってたし、問題はない。
神凪家のタオルとか食べ物の場所は熟知しているから大丈夫だろう。
「うーん」
「月夜、起きた? 大丈夫?」
「あれ……世界で一番かっこいい王子様がいる……」
誰の事だろうか。
月夜は僕がイケメンに見える魔法がかかってるんだったな。瓜原さんはフィルターといい、世良さんは呪いって言ってたな。ひどすぎない?
「やっぱり太陽さんだぁ。へへへ」
「月夜本当に大丈夫?」
手を月夜のおでこにあてる。
まだ熱があるようだ。ぼーっとしているのもそれのせいだろうか。タオルを水につけてあげないとな。
「太陽さん、学校は大丈夫なんですか」
「大丈夫だよ。今日は1日側にいるから」
「ごめんなさい。でも……すごく嬉しい」
つらそうでいながらも月夜は顔を綻ばせてくれる。僕は月夜の熱をもう1度確かめるため、月夜のおでこに自分のおでこをくっつけた。
やはり熱い。
「ふわぁ」
「ん?」
「チューしたら治るかも…‥」
「やれやれ、してほしがりやさんめ」
そのまま手を月夜の首に手を添えて、キスをした。
月夜をベッドへ寝転ばせて、上から覆うように場所を移動する。さすがに強めにせず、呼吸もしやすいように浅めのキスをする。
体を持ち上げる。
「太陽さんに風邪うつっちゃいますね」
「うつったら月夜に看病してもらうよ」
もう妹にバレて、そのまま母親にも彼女できたことがバレてしまったので家で看病してもらっても問題ない。
母親にすぐにでも家へ連れてこいと言われている。それは春休み入ってからかな。
「ごめんなさい、もっとお話したいけど……」
「薬の影響だろ。しっかり寝な。大丈夫、手は繋いでてあげるから」
「太陽さんの手……暖かい」
月夜の手はスベスベして気持ちいいね。月夜が元気になれるようにぎゅっと握ってあげた。
月夜は穏やかな顔をして寝息をたてた。
こう言ってはなんだけど……冗談とか贔屓とか抜きに月夜に好かれてるな僕って。交際してそろそろ一ヶ月で……下手をすれば魔法が解けて捨てられる可能性だってあるのに魔法の力を増すばかり、男はもう僕以外いらないみたいなそぶりすらも見せる。
重いといったら重いのかもしれないけど……負けないくらい僕も月夜が大好きだから……ちょうどいいね。
時間は自然と経過する。
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