110 月夜の誕生日⑤

 熱めの露天風呂に月夜がのぼせてしまい、倒れてしまった。救出しないといけないのだけど……この状況、僕にとって非常によくない。

 月夜は座り込んだ状態で前のめりに気を失っている。結び目の取れて真っ白の背中がまる見えの状態だ。これだけですでにごはん3杯食べられる状態である。

 この状態からどうやって救いだそう……。

 ゆっくりしている時間もない。僕自身ものぼせてしまいそうだ。はだけたタオルを引っ張って無理やり背中側で結びつける。

 うーん、うまくいかない。何でだ? とりあえず無理やり結んで月夜を肩を掴んで軽く持ち上げた。


「はうっ!」


 結んだ時に少しずれてしまったのだろう。月夜の前を隠しているタオルが下にずれてしまっていた。

 辛うじて胸の先端は見えていないが、見事に育った胸の谷間に僕はまじまじと見てしまう。大きい……。

 熱が上がってしまう。気を失っているこの今に、胸とタオルの間に手を滑り込ませたい衝動にかられた。


 ……私、太陽さんのこと信じてますから


 そうだ、月夜はそんなことを言っていた。

 僕を信じてくれている。そんな信頼を裏切ることはできない。それにこの前見たAVで男優が女の裸は見るより見せてくれる方が萌えると言っていた。

 だったら見るのは今じゃない。見せてくれるかどうかわかんないけど!


 タオルがはだけないように細心の注意を払い、月夜の背中と膝の裏を抱えて持ち上げた。よし、これならいける。

 お姫様だっこは体育祭の時にした。2度目だから恥ずかしく……、いやあの時ごつい服着てたから感触とかなかったんだよな。

 月夜のすべすべの背中と弾力のふとももに手があたる。持ち上げた時にヘアゴムも外れて、栗色の長い髪が解き放たれた。

 熱で顔を紅くしながらも……その誰もが恋焦がれてしまうような華美な顔立ちに……僕は静止してしまう。

 毎日見ているというのに……どうしてこう君は……僕を虜にしてしまうんだろうな。


「行こう」


 お姫様抱っこをしながら僕はみんなのいるA風呂へ突入した。


「誰か! 助けてほしいんだけど来てくれないか」


 どういう状況か分からないため大声で呼びつける。男の声だって分かるから無防備な恰好で近づいたりはしないだろう。


「太陽くん? はいは~い、行くよ~」


 お、よかった。水里さんが来てくれるようだ。彼女ならこの状況も……。

 亜麻色の髪をゴムでまとめた水里さんが陽気な笑顔で現れる。ちゃんと水着を着ているんだな。いつもの僕なら慌てるけど今はそんな状況ではない。

 僕の姿を見て、水里さんの表情は一変させた。


「な、何のプレイ……?」


 そういう表情の変化は求めてない。

 確かにタオルがはだけそうな月夜を必死の形相で食い止めてる僕にドン引きしてもおかしくはない。

 いや、ほんとマジ助けて。


「君が思っているような事態じゃないんだ……」

「思ってる事態にしか見えないけど、分かったよ!」


 ひとまず月夜を水里さんに手渡す。


「海ちゃ~ん、木乃莉ちゃ~ん、手を貸して」


 月夜の柔らかみから解放されて、僕は大きく息を吐いた。そのまま、恐る恐る大浴場を覗くと他のメンバーみんなそこにいた。

 全員水着を着ており、星矢を囲んでいるようだ。

 こーいうシーンを漫画で見たことがある。美女に囲まれる男。あの男、ほんとこういうシーンが似合うよな。ハーレム王みたいだ。

 やってきた世良さん、瓜原さんが横を通りすぎ、僕は星矢の横へと行く。


「随分と楽しいことをしていたようだな」

「はぁ……ここ最近で一番焦ったよ」


「え、月夜、水着を着てないじゃん!」


 世良さんの大声で全員の視線が僕に集中する。水着を着ていてくれればこんなことにはならなかったのに……。


「いや、僕は何もしてないよ! ぼ、僕が水着を剥がすようなやつに見えるか?」


『意気地ない』

「全員一致でハモるなよ。あと見えるかどうかを聞いたんだけど」

「おまえにそんな度胸があるなら月夜を1人でB風呂に行かせたりはしない」

「そうなんだろうけど……事前に情報が欲しかったよ」


 介抱は年下勢に任せたのかな。水里さんが戻ってきた。

 こう見ると各々性格が見えるよね。水里さん、ひーちゃん、九土さんは慣れているのか水着で堂々としてるし、北条さん、弓崎さんは水着も恥ずかしいのか上からタオルをつけたままだ。

 この星矢という男はいつも通り堂々している。タオル剥ぎ取って股間を露出させてやろうか。


「で、太陽くん。素っ裸の月夜ちゃんとどこまでいったの」


 からかうような口調で水里さんが聞いてくる。この人達、このような恋路の話は大好物なんだよな。めんどくせぇ。


「すぐにのぼせちゃったから、何も出来ていないよ。期待するようなことは何もない」

「ふむ、それは残念だな。せっかくのソーププレイを楽しめばよかったものの」

 

 九土さんは真剣な声でとんでもないことをぶっこんできた。

 僕は17歳だからよく知らないけど、それ言っちゃいかんワードだと思うよ! 九土さんはどこまで詳しいのやら。

 ふぅ……、少し落ち着いてきた。

 この機会だ。今は月夜も聞いていない。ちょっとみんなに確認してみたいことがある。

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