089 餅つき②

 今日ここに参加した児童は10人ほどだ。10歳までぐらいって感じかな。

 僕と月夜で相手をしていく。

 相変わらず、月夜は大人気だ。僕も幼稚園の時、月夜みたいな綺麗な先生がいたら、恋とかしてたかもしれないなぁ。


 大人達は酒盛りしつつ、餅つきを開始している。あっちはもう少し時間がかかるな。

 焼き餅、お雑煮、おしるこ。何で食べるか楽しみだなぁ。


 月夜は幼稚園に置いてあった紙芝居のセットを使って読み聞かせをしていた。

 綺麗な声から生まれる物語に比較的大きな子供達も聞き入っている。いや、紙芝居じゃなくて月夜を見ているような気がしなくもない。

 月夜は本当にこの仕事に向いてそうな気がするよなぁ。向いていると実務は違うから強くは言えないけど、子供達に微笑む月夜の姿は本当に美しい。


「おしまい!」


 子供達から歓声が上がる。一部の大人達もこちらを見ており、いい感じの雰囲気になっている。

 僕は紙芝居セットを片付けて、月夜に飲み物を渡した。

 椅子に座った月夜を労ってあげないとね。


「お疲れ様」

「ありがとうございます。ふぅ」


 月夜は息を吐いた。やっぱり喋りっぱなしだから疲れたんだろうな。

 肩でも揉んであげたいが……セクハラになったらやだしなぁ。こういう時、性の差に困る。

 ……頭ならいいかな。


「ひゃっ!」

「とっても良かったよ」

「髪がですか?」

「紙芝居だよ」


 髪もいいのは間違いない。月夜はくすりと笑った。


「いきなり頭を撫でてくるからびっくりしました」

「肩とか揉んであげた方がいいのかなと思うけど」

「肩はよくこりますけどねぇ」


 確かにそれだけ大きいと肩がこりそうだ。月夜より大きい弓崎さんや九土さんは肩が岩になってそうだな……。


「でもくすぐったいので揉んだら駄目です!」

「あはは、そっちにいっちゃうか」

「それに太陽さんに頭撫でられるのはスキなので……それで十分ですよ」


 本当に綺麗な髪だよなぁ。この髪量で1本1本艶が出ていて美しい。

 月夜の髪をもみ上げるように持ち上げた。


「あの、頭を撫でていいとは言いましたけど、髪を触っていいとは言ってないですよ」

「てっきりご褒美かと」

「私を労ってるんじゃないんですか!?」


 すると子供達が集まってきた。


「二人はかっぷるなのー?」


 うっ、そういえば面倒だから彼氏彼女の関係にしておけって満里奈先生から言われていたな。

 月夜はちらっとこっちを見る。まぁ僕から言うべきだろう。


「そんな関係だよ」


「ちゅーはしたの?」

「だきあったの?」

「いつ結婚するの?」

「満里奈先生に悪いと思わないの」


 マセているな……。あと30歳の女性が混ざってる気がするがスルーすることにしよう。

 この場合どう返答するのがベストなんだろうか。チューも抱き合うも素でやるのは無理すぎるんだけど……。


「じゃあお姉さんのこと好き?」

「好きだよ」

「はぅ!」


 脊髄反射で喋ってしまった。僕は口を手で塞いで余計なこと言わないようにした。


「おねーさん、真っ赤だぁ」

「らぶらぶだぁ」

「かわいい~」

「チッ」


 舌打ちはやめてくれ。

 子供達の言葉から月夜は照れているんだなということが分かる。こんなこと言っちゃ駄目なのに……月夜を見ていると想いが溢れてしまう。


「月夜……」

「はい」


 月夜は潤んだ目で僕を見上げる。

 このまま2人で……。


「お餅できたわよー」


「おもち!」

「たべるー!」

「いこう!」


 子供達の勢いに空気が一変してしまった。

 危うく2人だけの空気になりそうな所が一変してしまったようだ。


「ふぅ、僕達も食べにいこうか」

「はい、そうですね」


 この関係はゆっくり進めていこう。今すぐに何かあるわけではないのだから。


 僕と月夜はたくさんのおもちを食べて、この休みを満喫できたのであった。

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