076 体育倉庫②
僕の両手は見事に月夜の胸を掴んでいた。月夜から淡い悲鳴が上がり、僕達の時は止まる。
ブラジャー越しなのか想像していた感じではなかったが手で収まり切らないレベルの大きさにただ、ただ唖然としていた。
自分のやってしまったことに気づいた時、僕は血の気が引いた。
「おわあああああああ! ごめんなさい!」
すぐさま手を外して僕は後ずさった。月夜は顔を下げ、両手で胸を押さえる。
やばい、やばい、でかい……違う。女の子の胸を掴むだなんて……人生終わってしまう。
言葉を出せずにいると月夜の顔はこちらへ向いた。
「じ、事故ですから……」
「顔が赤を通り越して黒くなりかけてるよ!?」
笑顔なのはそのままだが恥ずかしさが臨界点を超えて、血液が完全に頭にまわっているように見える。
おかげでこっちの頭が冷えてしまった。これで落ち着かせれば何とかなるか。
月夜は胸を押さえながらふらふらしている。後ろの跳び箱にぶつかった。
大きな音がして、上に積んであった消石灰の袋が動く。やばい!
「月夜!」
「え?」
僕は飛び込んで月夜の体を抱えて盾になった。消石灰は僕の体に当たらず、かする程度だったため痛みはない。
完全に月夜を押し倒す形となった。
「大丈夫?」
「あ、はい……」
サラサラの月夜の栗色の髪が右手に、柔らかで熱をもっている月夜の背中に左手がある状態。
月夜の顔はちょうど僕の胸部にあり、完全に抱きしめている状態だ。緊急事態だったとはいえやばかった。
僕が起き上がろうとすると月夜の両手が僕の背中にすっと走り、おさえつける。
「やだ……離れないで」
そこで月夜の顔を見る。うるんだ二重の瞳、整った鼻、弾力のある唇……全てが魅力的で、不安そうにでも……期待に満ちた表情、その一つ一つが本当に綺麗で僕の心を打った。
「ぎゅっとして……ください」
耳に残る綺麗な声に僕の手に力が入る。可能な限りの力をいれ、月夜を精一杯抱きしめた。
こんなことをしてはいけないのかもしれない。でも求める月夜がいじらしくて、かわいくて……僕はもうどうでもよかった。
5分、10分……このままなのだろうか。心臓の音が聞こえる。体が熱い。月夜の体はとても柔らかくて、いいにおいがする。
このままもっと先へ進みたい衝動にかられる。
明度の低い旧体育倉庫、跳び箱もマットも消石灰も何も物を言わない。ここには僕達2人だけ……わずかに差し込む外の光もかなり減ってきた。
日が暮れようとしているのだろう。僕は手をそのままに首だけをドアの方へと向ける。いつまでもこうしていたい……そんな風にも思える。
冷静に……頭はクリアになっていく。もう2人の関係を止める術はないのかもしれない。
茶色い地面、錆で剥がれたドア、ドアの隙間から瞬きもせず見つめる視線、白い壁……。
視線?
黒い色の瞳と目があった。
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
僕は慌てて月夜から離れて、ドアから離れる。この瞳……というかドアの隙間から見える人物に見覚えがあった。
「せ、星矢!?」
「ほぅ……俺のかわいい妹を押し倒してしまうとは困ったやつだな」
「ち、違うんだ! 確かに抱きしめたのは事実だけど、これにわけがあって……頼む、信じてくれ!」
「まぁ、月夜が襲おうとして胸を鷲掴みにされたあたりからずっと見てたけどな」
「何で声かけねぇんだよ!?」
僕は力の限り訴えた。
星矢の力を借りて、何とか旧体育倉庫から抜け出した。
「部活が早く終わって陸上部見にいったら誰もいなくて……ここに来たら案の定だ」
どっと力が抜けてしまった。まぁ星矢に誤解されなかったのはよかったけど……、はぁ。
「もっと早く声をかけてくれよ」
「おまえがどこまで誘惑に耐えられるか見たくてな。服を脱がそうとしたら止めるつもりだったぞ」
おいおい……。でも行くところまで行こうとしていたから気づいてくれてよかったのかもしれない。
「おまえにちゃんとち〇こついているのか心配になってたからな」
「余計な心配だよ!? あとおまえには言われたくないよ!」
ハーレムに手を出してない人にだけは言われたくないよな。
月夜にも冬服を渡したが座り込んだまま動かない。こっちを向いてくれないので表情もいまいちわからなかった。
「あの月夜?」
「ひゃい!」
月夜は立ち上がって、僕と星矢の横を抜け、あっという間に走り去ってしまった。
僕達の横を通る時に見えたその表情は恥ずかしさでいっぱいという感じだった。月夜もまた……勢いで突き進んでいたのだろうか。
「あまりこういうことは言いたくないんだが」
「なんだよ」
「避妊だけはちゃんとしてくれよ」
「何の話をしてるんだよ!?」
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