075 体育倉庫①
もうすぐ12月、朝晩も相当冷えるようになってきた。
部活をしていても、体を動かしていないと夏服じゃかなり厳しくなってくるな……。
「こんな所があったんですね」
「昔使ってた体育倉庫らしいよ。今は物置だね」
部活で使う消石灰やその他備品の予備がこの旧体育倉庫にあり、普段使用して足りなくなったら体育倉庫へ持っていくということをしていた。
僕と月夜は荷物整理と備品運搬ということで旧体育倉庫の中へ来ていた。
「建付けがかなり悪いから気をつけてね」
「はーい」
旧体育倉庫はかなりギチギチに物が詰め込まれており、取り出すのもわりと一苦労だ。ドアをいったんしめて、開いた部分から手を回して、奥の消石灰を取り出す。
「明かりはちゃんとつきますね」
「といっても暗いから早くすませたいね」
月夜と手分けして倉庫を整理する。埃っぽいなぁ。かなりの重労働ゆえに僕も月夜も冬服を脱ぎ、外へ置いていた。
「こういう体育倉庫って」
月夜は古くて使わなくなった跳び箱の上にひょこっと乗り上げる。
「2人で閉じ込められる話がよくあるじゃないですか」
「マンガの世界の話でしょ。そんな話あるわけ」
その時積み上げていた黒板がシートを滑り落下してきた。落下地点に僕も月夜もいないので問題はないのだが、ドアに轟音をあてて、ぶつかった。
「ありゃひん曲がっちゃったな」
大きな衝撃でひん曲がった黒板を一度床に置いて、外に出すためドアに手をかける。
「あれ?」
「どうしたんですか」
「ドアが開かない」
僕と月夜、2人がかりでドアを開けようとするがびくともしない。正確にはもう一人、道具を使えば何とか開くかもしれないという感じだ。
建付け悪かったドアが今の衝撃で動かなくなってしまった。
「閉じ込められてしまいましたね」
「言った矢先じゃないか……」
「携帯……あ、部活中だがら更衣室だ」
携帯は僕もだ。人通りのほぼない旧体育倉庫に閉じ込められるってかなりやばくないか……。
「太陽さん……」
ちょっと不安そうな顔をする月夜。明かりがつくとはいえ、日が沈むとさすがに暗くなるし……。
「今、17時前だろ。今日は星矢がバイト休みで部活帰りに3人で帰ろうって話をしてるから多分気づくと思う」
月夜の顔が明るくなる。
「じゃあお兄ちゃんが探しにきてくれれば」
「旧体育倉庫のことは知ってるし、倉庫の前に機材も置いているから1時間もあれば来ると思うよ」
「よかった~」
確かによかった。これで朝までとかだったらさすがによくないしね。月夜と2人っきりで狭い部屋ってのもなかなか大変だけど。
月夜はマットに置いてある消石灰をどけて、ひょこっとマットに寝転んだ。
半袖で厚みの少ない白の布地を目にやるとどうしても理想的に成長した胸部に目がいってしまう。また、ちょっと大きくなった? いや、セクハラか!
そんな邪な考えをしてはいけない。僕は気をもたず、月夜の隣に腰をかけた。
他愛無い話をして時間が潰すのだが……。
「クシュン」
かわいいくしゃみだ。そこで僕は気づく。僕も月夜も夏服の状態だったのだ。物の運搬をしている時はよかったが、こうやってじっとしていると11月末の寒さが僕達の体を包み込んだ。
「さすがに寒いね」
「あと1時間大丈夫かなぁ?」
星矢のことだから大丈夫だと思うけど……凍死なんてしたらシャレにならん。
運動っていってもこの狭い体育倉庫じゃ何もできないし、どうすれば……。
「何か温まることでもできれば……」
「じゃあ!」
月夜は穏やかな笑みで声をあげた。
「抱き合って温めあえばどうでしょう」
「何を言ってるんだ、君は」
三角座りでちょこんと座る月夜は僕の目をじっと見つめて提案する。あ、そうだね。力の限り抱きしめてみたいよ。
そんなことして星矢に見られたら僕の命は恐らくない。
月夜は僕の手を取る。
「ほら、ちょっとだけ温かくなりましたよ」
その通りだ。柔らかな月夜の手に触れ、少し体温が上がった気がする。しかし、これだけじゃすぐに冷めてしまうだろう。
月夜は立ち上がって、僕の後ろに回り込んだ。何か躊躇してるような気もするけど……何を。
「えい!」
月夜の手が僕の視界に入り、そのまま体を掴まれる。つまり後ろから抱きしめられている恰好だ。
「ちょ、ちょ、月夜!?」
「こ、こうすれば温かいですよ!!」
これは確かに温まるのだろうが精神衛生的によくない。背中に当たる柔らかい何かが僕の思考を乱す。
振りほどこうと思うがしっかりホールドされており、振りほどくことができない。
月夜の小顔がすぐ顔の横にあり、吐息が耳にかかる。体は熱を帯び、寒さは和らいだ。しかし、この状況は男としてまずい。
「ま、まずいって、こんなところ誰かに見られたら!」
「誰も来ませんよ。建付け悪いから来たらすぐ分かります」
「だからといって男に抱き着くのは……」
「でもお兄ちゃんにこうやって抱き着いたりしますよ。寒い時は」
星矢にもするのか? だったら兄と妹の立場ならありなのかな。僕は実妹とそんなことしたことないけど……。
「小学生の時ですけど」
「おい、今なんて言った」
月夜の力が弱まった隙をついて、抱き着きから逃げ出した。
マットの上でさらに飛びつこうとする月夜と両手を上げて、首を振る僕。おかしい、これ普通……逆じゃない?
「ふふふ、もう逃げられませんよ」
「月夜……」
こうやって対峙して気づく。
「顔真っ赤だけど無理してないか? ほんとは恥ずかしいんだろう」
「べ、別に恥ずかしくないですよ! こんなの普通ですし」
月夜は耳まで真っ赤にし、どことなく汗まで出ているような気がする。ここまで熱くなってるなら抱き着く必要なんてないんじゃないか。
それに僕だって十分堪能させてもらったし、これ以上は理性を保てなくなるのが怖い。
月夜はじりじりと近づいて飛び込んできた。僕はその飛び掛かりを押さえようと両手を差し出した。
「ひゃあ!」
「あれ……」
僕の手はとんでもないものを掴んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。