043 天

 夏休みのだるさもようやく消え、日常の学校生活が始まっている。

 まだまだ残暑が厳しいが次第に涼しくなっていくのだろう。

 6限目の授業が終わって、部活動へ精を出そうと思ったらハードルが20個くらい運動場に放置されたままであった。


 こんなことするのは一年生かぁ? 先生を通じて注意だな。

 このままにしておくわけにはいかない。今日は使用予定はないし、戻しておかないと。


「太陽さん、手伝います」

「月夜、悪いね。ありがとう」


 すっかり陸上部のマネージャーの花となった神凪月夜。月夜を狙って陸上部に20人くらい入部しようとしてきたが、全員入部NGとなった。

 単純に不穏にしかならないし、月夜の寵愛を分散されるのが嫌だからというのが最もな理由だ。

 さっさと戻して部活動に戻らないと……。


「先輩、僕も手伝います」

「ん?」


 そこにいたのは黒髪の少年だった。思わず声が出るほど眉目秀麗な男子生徒だ。目、鼻、顔立ちと整っており、髪型もくせ毛はあるが整えている。

 僕よりも身長が少し低いな。165センチくらいだろうか。でも手足は太さを感じ、鍛えているのかと感じさせる。

 僕を先輩と呼んだから1年生か。


「あれ、遊佐くん?」

「神凪さん、こんにちは」

「つ……妹ちゃんの知り合いなのか」


 学校では基本的に妹ちゃんで通しているので、ふいに間違えそうになる。グループのメンバーだけなら月夜って呼ぶんだけど。


「同じクラスで同じ特進科の同級生ですね。それよりどうしてここに?」

「山田先輩と神凪さんがハードルを片付けてるのが見えたから来たんだよ。多分6限目の体育科の人達だね」

「え、特進科だったら君は関係ないんじゃないか」

「2人でこれだけの数は大変だと思って……余計なことをしちゃいましたか?」


 大助かりだよ。遊佐くんが手伝ってくれたおかげで短時間でハードルを片付けることができた。

 陸上部な僕達ならともかく、科も違うのに手伝ってくれるなんていい子だな。


「助かったよ。えっと」

遊佐ゆさあまつと言います。山田先輩は噂通りですね」

「僕のこと知ってるの?」

「ええ、陸上部に竹松ってのがいると思うんですけど、友人なんです。それで貧乏くじよく引く先輩がいるって」


 あいつぶっ殺す。


「でも面倒見がよくてみんな尊敬してるって言ってましたよ。気を配っていろいろ率先してやってくれるって」

「へぇ~やっぱり太陽さんは優しいですねぇ」


 ちょ、月夜まで褒めないで、恥ずかしいから。

 嫌がるというかやらないと部活ができないからやってるだけであって別に褒められることではないんだよな。

 遊佐くんも笑い、月夜も笑う。最近下級生からのからかいが多いような気がする。


「それでは僕はこれで。先輩、お疲れ様でした。神凪さんもまた!」

「助かったよ、ありがとう」

「じゃあね、遊佐くん」


 遊佐くんは校舎の方に戻っていった。

 あんな1年生がいたんだなぁ。知らんかった。


「特進科ってことは結構頭もいい感じ?」

「そうですね。確かずっと2位だった気がします」


 1位は目の前の女の子です。神凪兄妹の優秀さはもはや語ることはない。


「遊佐くんは1年生では有名人ですね。頭が良くて、運動もかなりできますし、生徒会役員なんですよね」


 顔も相当よかったもんな。2年の星矢と同じような奴が1年にもいるなんて。星矢は人付き合いがないからむしろ上か? でも身長は低いよな。だがそれがいいってのはある。

 月夜はさらに続ける。


「1年の女子も沸いてますね。男の子の話って言えば概ねお兄ちゃんか遊佐くんのどっちかですよ。友達で告白した子も多いって聞きますし」

「そ、そうなんだ」


 ずっと頭の隅に残っていたこと……。もし月夜に釣り合いような男子が現れたら……僕は応援する。

 彼だったら……もしかして。それはお互いに対して失礼だな。でも……。


「月夜は……」

「はい?」


 くりくりとした黒の瞳とニコニコした表情で見つめられては僕はこれ以上の言葉を出すことはできなかった。


「何でもないよ。じゃあ頑張って部活するぞー!」

「お~、目指せ全国!」

「地区予選も勝てないって」

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