041 下級生とプール③

「で、山田先輩は月夜のこと好きなの?」


 ド直球である。世良さんの裏表ない性格はいいことだが、異性にここまで聞ける人間をある意味尊敬する。


「好きだと思うよ。星矢もみんな……同じ感情だよ」

「そーいう回答を求めてないんだけど」


 月夜と瓜原さんは飲み物を買いに行ったようだ。

 1人残された世良さんが僕の横に座る。月夜ほどではないといえ、世良さんも相当かわいい子だから2人だとちょっと緊張するな。

 世良さんは目を細めて、顔をどんどん近づける。


「じゃあ、月夜と付き合いたいって思う?」


 吐息が聞こえそうな距離だ。たまらず視線を避ける。


「思わないかな。月夜と僕じゃ釣り合わないし、月夜にはもっと相応しい人がきっといるはずだ」

「は? 本気で言ってる?」

「本気に決まってるだろ」

「……っ!」


 ちょっと言葉の後ろを強めて言う。世良さんは表情を崩したが、言葉を返さず後ろに下がった。多分、押し切れると思ったのかもしれないけど、こっちだって年下に舐められっぱなしは困る。

 この話は前に月夜ともしたから、どう返すのが正解か分かっている。


「そんなの月夜がかわいそうじゃん……」


 世良さんはまだ納得できていない感じだった。あまり言いたくないことだけど……。


「じゃあ世良さんは好きな人に告白しないの? いるんでしょ、外に」

「はっ!? なんで先輩が知って……」

「やっぱいるんだ。まぁ星矢に唯一なびかない女の子だから、多分他に好きな男の子がいるんだと思ってたよ」

「じゃあ何で外だと思ったの」

「学校だったらもっと月夜と瓜原さんが手伝ってると思ってね。2人もよく知らない人なんじゃない」

「むむ……、先輩って見てないようで見てるんだね。なんか悔しい」


 何か微妙に嬉しくない。世良さんは悔しそうにむすっとした。いつもやりくるめられているからちょっと楽しいな。

 僕は少し笑ってしまう。


「異性にガンガン言われるのはしゃくでしょ? 僕もそうだし、だから放っておいてくれると助かる」

「く~や~し~い」


「どうしたの海ちゃん」


 瓜原さんが戻ってきた。


「先輩にはずかしめられた」

「言い方ァ!」

「え~」


 世良さんはそのままプールに入っていってしまった。そこで残された僕と瓜原さん。


「月夜は別?」

「はい、トイレ行ってから戻るって言ってたのですぐに来ますよ」


 瓜原さんはパラソルの横にあるチェアーにちょこっと座った。


「ちょっといいですか」


 次はこの子か。僕を相談窓口にしないで欲しいんだが……。月夜や世良さんと違って僕の横にこないのはこの子らしいなって思う。


「山田先輩はコンプレックスって感じますか? 星矢さんに」

「……羨ましくは思うよ。やっぱりね」

「そうですか。でも先輩は……口で言うわりに本気で嫉妬しているような感じではありませんね」


 貧乏以外は全知全能な男、神凪星矢。男子ではあれば誰でも嫉妬してしまうような人間だ。もちろん、僕だって嫉妬してしまうことはたくさんある。日常の勉強量は僕の方が多いのにテストの成績が全然とかね。

 でも……それ以上に星矢が好きなんだと思う。言っておくが変な意味じゃない。それを言葉にするのは難しい。


「君は月夜や世良さん……いや、それだけじゃなさそうだね」

「……」


 瓜原さんは月夜と世良さんと幼稚園から幼なじみである。つまり、星矢とも古くから知り合いだと聞いた。それから瓜原さんは星矢に想いを寄せている。

 言ってしまえばもう10年以上だろう。僕と星矢は高校生になって同じクラスで北条さんと知り合って、水里さんが転校してきて、さることで弓崎さんと知り合う。

 2年になってすぐに九土さんが転校して、ひーちゃんもやってきた。こうやって……人との繋がりが増えた。瓜原さん的には面白くないのだろう。僕も含めて全員高校から急に出てきた人達だからね。一部旧友だけど。


「みんな魅力的で……ちんちくりんの私じゃ星矢さんの横に立つことすら遠慮しちゃう」


 僕が瓜原さんの立場だったらちょっと難しいかもしれないね。天真爛漫な美少女すいり、女テニス部の大エースかすみ、学年2位の頭脳派かなは、九土原家のお嬢様くど、最強のアイドルひーちゃん

 きっつ。僕が男でよかったよ。


「星矢さんに告白した時、お前の恋はあこがれなだけだと言われました。……私と他の人の告白は何が違うんでしょうか」

「僕もまた聞きでしか聞いてないからね。でも見透かされてたんだと思うよ……星矢に。それが何かは僕には分からない」

「そうですか……。山田先輩は私と似ている所があるから分かるかなと思ったんです」


 表に出たがらない性格。月夜や世良さんのような輝かしい表が近くにいると余計に表に出づらいのだろう。

 瓜原さんも相当にかわいいんだけどね。どうにも自信が持てないのかもしれない。


「それに……」


 瓜原さんは続ける。


「月夜に好かれている理由を参考にできればなって」

「え? ごめん、よく聞こえな」

「呟いただけですから聞かなくていいですよ」


 それから僕達は無言となる。元々瓜原さんはよく喋る方じゃないし、僕自身も女子とせっせと会話する方じゃない。

 このまま話題を終わらせることもできるだろう……。ただ、これだけは伝えておきたい。


「僕と君はかなり似ていると思う、性格がね。でも星矢が見透かした所は……僕が絶対理解できないことであるとはっきり言えるよ」

「えっ、どういうこと」

「2人とも何話してるんですか?」


 おぉ……月夜が帰ってきてしまった。しかもちょうどキリが悪い所じゃないか。

 僕も瓜原さんもさっきまでの話題を言うことができず、下を向いていた。


「木乃莉……何かあったの?」

「……え、えーと……。山田先輩にはずかしめられた」

「おい、言い方ァ!」


 この後世良さんも戻ってくると彼女の元気さで空気は一変、僕達は残る時間、十分にプールを楽しんだのであった。

 そしてプールからの帰り道……。

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