037 月夜と夏祭り②
あれから月夜と話が出来ていない。あの反応は何だったんだろう。他の女子、男子のかわいいと何が違ったんだろう。
考えるのをやめよう。せっかくの1年に1回の夏祭りだ。楽しまないと。
しかし屋台までの道は人があまりにも多く、身動きが取れない。
特にこの先の十字路がすごい人だ。
「ここの祭りってこんなに人多かったか?」
「今年は特に多いね」
星矢と話し合う。これじゃ、下手したらはぐれてしまうかもしれないな。
十字路に差し掛かったあたりで前からさらに大きな集団がやってきた。
何あれ!? みんなに声をかける間もなく僕達10人はその集団に巻き込まれてしまったのだ。
1人になるのはまずい。誰か1人と一緒にいないと!
僕は残る9人、それまでいた場所を再度見る。9人の手がいまにも分散されようとしていた。
僕はその中の1つ……1人の腕を掴んで引き寄せたのだ。
もはや、直感だったと思う。
僕が掴んだのは黄色の花柄の浴衣を着た少女。
「あっ!……太陽さん!」
僕の顔を見て不安そうな表情を一変させ笑顔へと変える。……本当にかわいい学園のかぐや姫。
月夜は僕の顔を見て……とても嬉しそうに表情を綻ばせた。
月夜の腕を引っ張って十字路から抜けようとする。この十字路どの方向に行っても屋台は存在している。どっちへ行ってもいいんだけど……抜けやすい所を進んだ。
「ふぅ…‥すごい人だったね」
「ええ、もみくちゃにされるかと思いました」
月夜をもみくちゃか。何と羨ましい。
こっちの方に抜けられたのは僕と月夜だけのようだ。まだ十字路には人が多く、今後どんどん増えてくるだろう。合流は難しいかもしれないね。
2人で先に進む方がいいかもなぁ。
「太陽さん、2人で先に遊んじゃいましょうか」
「そうだね」
月夜も同意見のようだ。僕と月夜は屋台街をぶらぶらと見ていく。
「お小遣いは大丈夫なの? 前のデー……遊びの時は足りないって言ってたけど」
デートという言葉を吐くのが恥ずかしく、名称を変えた。
月夜は自信ありげに手を脇腹に添えるのだ。
「ふっふーん、給料日だったので今は潤っているのです」
「おおーすごい。じゃあ、あそこのベビーカステラ100個入り食べられるね」
「太陽さん、絶対私のこと大食いキャラだと思ってるでしょ」
月夜と僕は会話を楽しみつつ、屋台を1つずつまわった。
前のデートがうまくいったからかな。月夜との触れ合いに無理がないような気もする。
最近、言葉もあまり淀まなくなったな。ふとした月夜の視線に照れてしまう時はあるけど。
焼きそばとかお好みやきとか、ホットドッグとかガンガン食べていくんだけど、この子、隠す必要なくなったからフルスロットルだな。
美味しそうに食べている所を見ると僕も空腹になってくるや。
金魚すくいに射的、くじ……とにかく月夜がかわいいおかげでおじさんたちがにっこにこだよ。
射的も弾数サービスしてくれたしね。僕にはしてくれなかったんだけど。
「たのしい!」
綿あめを片手に振り向いて微笑みかけてくれる。
ああ、……喜んでいる君を見ていると本当に胸が……。
月夜の可憐さに通路を歩くたびにいろいろな人からちらちら見られる。月夜に見惚れて怒られる男女カップル。月夜の美しさを話題にする男子グループ。
僕が側にいないとだね。
「今年は特に楽しい気がする」
「どうしてですか?」
月夜と一緒だからかな。でもそんなこと言えるわけもない。
「……みんなと一緒だからかな。月夜はどう?」
「楽しいですよ~。きゃっ!」
ちょっとした集団がやってきたので思わず月夜を手元に寄せてしまった。
人が多いと気を配らないといけないな。
……月夜? 何だかすごく顔が赤い気がする。
至近距離で月夜を抱き寄せる形となっており、僕は思わず離れてしまった。
「ご、ごめんね!」
「いえ、庇ってくれたんですよね。やっぱり太陽さんは優しいです」
月夜は表情を綻ばせ、柔和な笑みを浮かべる。
かわいい、かわいい、かわいい。
思わず唾を飲み込んでしまう。
月夜は僕の側に寄った。
「ずっと言えなかったんですけど……太陽さんの浴衣……すっごくカッコイイです。見惚れちゃいます」
「あ、ありあり……がと」
ダメダメだ。何でこう恰好付かないんだろうな。
月夜に見惚れて……男らしくなれていない気がする。
僕と月夜はしばし、無言となり通りを見物していく。そうして時間は過ぎていく。
「太陽さん、そろそろ」
「時間だね、行こうか」
集合場所である花火がよく見える高台への道はえらく混んでいた。まぁあそこで見るのがセオリーだからね。どうしようかな。頑張ってくぐりぬけるか。
「別の高台になっちゃうけど他の道がありますよ」
そうなると集まれなくなるな……。他のみんなはどうだろう。
他の面々に聞いてみよう。こう人が多いと電話繋がるかな。
「僕は星矢に。月夜は女の子を頼むよ」
星矢に着信をかける。すると珍しくすぐ繋がった。
『どうした』
「そっちはどうだ? 僕は月夜と2人でいる」
『俺も2人だ』
2人!? ってことは星矢はハーレムズの中の1人をあの混雑から掴み取ったというのか。これは大きな誰かは知らんが一歩リードだ。
「誰と一緒なんだ?」
『海香だ』『ちーっす! 星矢先輩といるよ~!』
世良さんかよ! 唯一好意がない女の子じゃないか!
「おまえまだ女作りたいの!? 色ボケんなよ!」
『言いがかりだ!?』
腹が立って電話を切ってしまった。あいつ全員女を落としたいのかな。
隣の月夜も誰かと連絡がつながったようで状況を把握している。
電話の内容を聞いた感じだと僕達、星矢組以外は全員集まってるみたい。花火が良く見える所に到着したようだ。
「あ、海ちゃんから連絡だ。お兄ちゃん達も合流できそうです」
「合流できないのは僕達だけか……仕方ない」
花火が見れないのはやっぱり嫌だし、月夜が知っている道で別の高台に移動することにした。
しかしそっちの方もかなり人が多い。このままだと絶対はぐれるな。
だったら……。ちょっと緊張するけど。僕は月夜に向け……手を差し出す。
「は、はぐれるわけにはいかないし……手を繋ぐか」
「―――はい」
月夜も少し緊張した様子で差し出した僕の手を握る。
相変わらず柔らかい手だ。綺麗ですべすべしてる。
それにしても……。
「両手でつかむ必要はないんだよ」
「いいんです!」
「そんなに強く握ると僕の手が……」
「そんなに強くないもん!」
僕の右手が月夜の両手に掴まれる。僕、手汗とか大丈夫かな……。
もう花火も始まる。急いでいこう。
混雑している集団にもぐり、月夜を決して放さないように進んでいく。月夜がすんごい力で僕の手を握るから手を緩めてもはぐれることはないんだけどね。
ようやく……僕達は高台の方へとたどり着いた。定番の場所に比べたら広くはないし、やや傾いているが、定番の場所より高い位置にあるので花火はよく見えるかもしれない。
いよいよだ。
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