038 月夜と夏祭り③

 僕と月夜は二人で空を見上げる。もう間もなく一発目の花火が始まるだろう。

 まわりを見るとカップルが多いような気がする。僕と月夜はどんな風に見られているんだろう。


 月夜は月夜で僕の手を放してくれない。もうそんなに力はいれてないのに、月夜は全開で力を入れてくる。


「太陽さん花火! 来ましたよ」

「おおーっ!」


 光が先に音が後に。花火とは夏の風物詩だなと思う。

 昨年までは男友達とバカやりながら見ていたけど……今年は違う。

 誰よりもかわいくて、優しくて、一挙一動が魅力的なこの子と一緒にいられることがとても楽しい。

 この時間は長くは続かないのかもしれないけど……このままの関係を続けたい。


「とてもきれいですね」

「そうだね。ここの花火は何年見ても飽きないよ」


 花火は綺麗だ。そしてそれを眺める月夜も綺麗だ。

 月夜の浴衣ってどことなく花火を連想する柄だよなぁ。

月夜をじっと見ているとその視線に気づかれる。


「どうしました?」

「月夜の浴衣って花火とマッチしてるよね。そのための浴衣なのかな」

「浴衣はそれぞれで選んだんですけど……頭に花火のことがあったから選んだのかもしれませんね」

「花火の浴衣か……どっちも綺麗だな」


 僕は視線を月夜から大空へと向ける。


「大花火だ! すげー」

「た、太陽さんは……」

「ん?」

「綺麗だと思いますよね」

「うん」

「私と花火……どっちが……その……綺麗ですか?」



「月夜かな」

「ふぇっ! ――――――っ!」


 ん? ちょっと待って。


「今、僕何言った。なんかとんでもないこと言った気がするんだけど」

「な、なにも……言ってないです。花火とてもきれいです」

「何で花火見てるのに下向いてるの?」

「顔見ないでください、えっち!」


 だからえっちってなんだよ!

 花火大会も終盤になってきた。僕は定番の高台の方に視線を向ける。

 あ、星矢達の姿があった。ちょうど階段を降りれば到着できそう。


「月夜、この階段を下りれば星矢たちと合流できるけどどうする?」

「えっ……」


 月夜はその一瞬、寂しそうな顔を見せた。その一瞬がとても印象的で……。 


「もう終わりだし、終わってから合流しようか」

「――――はい!」


 2人だけの思い出としよう。

 そして最後の特大の花火が打ち上げられたのであった。

 僕達は手を繋ぎ……、その思い出はいつまでも忘れないだろう。



◇◇◇




 僕と月夜はみんなと合流した。

 何か視線がちょっと気にくわないというか、いらいらするというか。


「あらあら、お仲がよろしいですことね」


 水里さんがわけの分からない言語で僕と月夜を冷やかす。

 僕は分かってるんだけど、月夜はそこでようやく僕の右手をずっと握ってることに気づいたようだ。


「あっ!」


 手を見て、恥ずかしがり、次に僕の方を向いて目が合う。それがまた気に障ったのか首を別の方に向けた。

 さらに言えば手は解放されない。

 このままだとからかわれそうだし、逃げ道を言うか。


「そんなに羨ましいなら……みんなも握ればいいじゃないか」


 その言葉で女たちは一斉に狩人となる。犠牲になる男は全員に見つめられ少し顔を引きつらせた。


「おい、何を考えて……ってこら俺の手を掴むな!」


 星矢の左手に3人分、右手に3人分と掴んでいく。

 さすが星矢でも6人の女の子には勝てず、引きずられていく。


「ちょっと待て! 待て、痛いから離せって!」


 星矢の苦悶の声を聞きつつ、手ごわい女達は先へ進んでいく。


「太陽さん……」


 月夜はぐっと見上げて僕の視線と合う。頬は赤みを覚え、二重の瞳は純粋だ。柔らかそうな唇に思わず……してしまいそうになる。

 何て綺麗なんだ……。


「2学期も宜しくお願いします」

「ん、こちらこそ」


 この時間をいつまでも大切にしていきたい。僕と月夜は手をつないだまま……みんなの後を追った。


「あ、後で写真撮らせてね」

「……え?」

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