017 お騒がせ女

 今日も全国的に真夏日だという。

 8月も下旬に差し掛かったというのに困ったものだ。雨が降るよりはいいんだけど、こう暑いとね。

 まだ7時台だというのにもう暑い。セミはうるさいし、じりじりとアスファルトが熱されている。

 今日も神凪兄妹を起こしにアパートにやってきたけど、クーラーないから熱中症で死なないか心配だ。


 階段を上がり、2階へ到達したら星矢の家の扉へ佇む1人の女性がいた。

 亜麻色の髪を肩まで伸ばし、ふわふわの髪質で所々外にハネているのが印象的だ。美麗な顔立ちをしており、横から見て分かるほどその女の子は正統派美少女に見える。

 喋らなければ完璧だよな。喋らなければ……。声をかけなきゃ始まらないため少し離れて声を出す


「水里さん、どうしたの?」

「ひゃあ!」


 加賀谷水里かがやすいりは私立恒宙こうちゅう学園特進科の2年で僕や星矢と同じクラスの女の子だ。

 実をいうと星矢の隣の家に住んでいる。東北からはるばるやってきた転校生であり、今年の冬からの付き合いだ。

 昨日まで実家に帰省したので僕も久しぶりに会う。


「な、なんだ太陽くんかぁ。もう、驚いて損しちゃったよ。太陽くんごときで驚いちゃうなんて……私もまだまだ修行が足りないなぁ」

「何で朝一で僕はディスられているんだろう」


 大声は近所迷惑になるためひとまず水里さんに近づく。


「入らないの?」

「いや……その……」


 水里さんは歯切れの悪い言葉を続ける。こんな殊勝な水里さんを見るのは初めてだった。

 何となく予想はつくけど……。


「7月の終わりのあの件が終わってから私すぐ実家に帰ったじゃない。あれから……星矢くんと会ってなくてどんな顔していいか……」

「あ、そっか惚れちゃったもんね!」

「何で直球で言うの!?」


 水里さんに僕の首ねっこを掴まれ、思いっきり揺すられる。頭が揺れて実に痛い。

 僕は女性に対してあまり失礼なことは言わないタイプだけど、この女の子に対してだけはわりと遠慮なく言える。

 そーいう間柄と理解してほしい。向こうも素でいろいろ言ってくるし、僕が水里さんと下の名前で呼ぶことも関係してる。

 顔を紅くして必死に揺する水里さんはすごくかわいいのだけど、どうにも僕の好みのタイプじゃないからかぐっと来ない。好みって大事だよね。

 僕は月夜みたいな女の子が好みなのです。


 僕は当事者じゃないからよく知らないんだけど7月の終業式前後で水里さんと星矢はいろいろあったらしい。

 詳しくは教えてくれないのだが惚れた腫れたの関係なのは間違いない。水里→星矢だけど。


「ま、じっとしてても仕方ないし、入ろうよ」

「そ、そうだね。あっ」


 水里さんは思い出したように声をあげた。


「太陽くん、入院してたんだよね~、おつかれ~。たのしかった?」

「軽っ、心底僕に興味がないことが分かるね……。楽しいってなにさ」


 7月終わりの一件で入院した僕にとっては判断が難しい。

 あの一件で月夜と急接近することになったため僕としてはあの一件のせいでとは言いたくない。


 神凪家の中へ入る。窓は開き、扇風機は動いているので熱中症にはなってないとは思うけど……暑い家だなぁ。


「じゃあ、水里さんは月夜を頼むよ。僕は星矢を起こすから」

「りょーかい! おまかせ」


 水里さんは月夜の部屋へ駆け出していく……が止まった。


「ちょっと待って、今なんつった」

「……僕は星矢を起こす」

「絶対月夜って言った! なにどしたの! あの太陽くんが月夜ちゃんの名前言うなんて、どしたの! ラブ!? ラブがあったの」


 うっぜぇ。この女の子のこういう所がイラっとくる。喋らなければなぁと思わずにはいられない。

 こういう時はこうするのに限る。


「そうだね。おーい、星矢。水里さんが本当の気持ちを告」

「わーーーーわーーーーーー! 分かった、もう言わないから止めてぇ!」


 こうして僕と神凪兄妹に加えお騒がせ女かがやすいりが日常に戻ったのである。

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