プロメアを振り返ろう

 この章ではプロメアのストーリーについて語りたいと思う。そのためにも、まずは本編でストーリーの進行上必要だった出来事を全て列挙していこうと思う。


①バーニッシュ誕生。世界各地でストレスに晒された人間が突然変異。


②ガロたちバーニングレスキューによる救護活動。マッドバーニッシュとの邂逅。マトイテッカー装備と幹部二人の撃退。


③リオとのバトル。チームプレイによってガロたちが勝利。


④ガロ、クレイより勲章をもらう。ピザ屋の店員がバーニッシュであることが判明し強制拉致。目前で起きた理不尽に怒りを隠せずガロはアイナと氷の湖へ。一方その頃リオは監獄を脱出。


⑤ガロ、脱走したバーニッシュの一味を発見。そこでリオと話をし、バーニッシュについて、クレイの残虐性について知る。


⑥ガロ、クレイの元に直談判。地球崩壊のリミットと移民計画、それに伴ってそこで行われていた非人道的なバーニッシュを使った人体実験を見る。クレイによって囚われの身となる。一方その頃リオたちバーニッシュはヴァルカン率いる「フリーズフォース」に襲撃され、リオ以外は囚われの身となる。


⑦クレイ、移住計画を最終段階まで進行。リオ、怒りの力を開放し町を襲撃。ガロ、その拍子に脱走しリオを止める。二人で氷の湖へと移動。


⑧氷の湖下にあった研究所にてクレイについて、バーニッシュについて、そしてプロメアについてプロメス博士より教えてもらう。リオとガロ、二人で操縦する機体デウスエックスマキナを操り町へと移動する。


⑨デウスエックスマキナ改めリオデガロンを駆使してクレイの操るクレイザーXを撃破。クレイがバーニッシュであったことが明らかとなり、リオは連れ去られてしまう。


⑩ガロ、ドリルを使ってリオを救出。クレイに決別の一撃を喰らわせた後、世界を救うためにリオと協力してガロデリオンを操縦する。


⑪燃える魂を燃料にプロメアを完全燃焼させ、並行世界との次元断裂を消すことに成功。町の復興のことを考えつつ、ガロとリオは拳を合わせてエンド。


サブエピソードを抜き取って、物語の進行上必要なイベントだけを並べたらこのようになるだろう。

 この内①~⑤までが「序」、⑥~⑧までが「破1」、⑨~⑩までが「破2」、⑪が「急」に当たると考えられそうだ。そのことも踏まえて感想を書いていきたいと思う。


(1)序について

 バーニッシュ誕生からガロがバーニッシュの実態を知るまでが「序」であり、世界観の説明や今後の物語の方針を明らかにするパートだが、非常によく出来ていたと思う。

 「バーニッシュとは?」「バーニングレスキューの具体的な活動は?」「ガロってどういう人物?」「リオってどういうキャラ?」「クレイってどういう扱い?」「この世界におけるバーニッシュの立ち位置は?」等など、観客が視聴以前に抱えていた数々の疑問に対して適切な尺を使って、最適な回答を出していたと思う。言葉での説明を省き、アクションを通して説明することで効率的な尺の使い方をしていた印象が強い(実際に取り締まられるバーニッシュと周囲の反応、バーニッシュ法の存在とその理不尽さなど)。

 また最初のバーニングレスキュー出動の様子を丁寧に描くことによって、以降の出動の描写を減らしていたのも印象的だ。これは「パシフィック・リム」の監督も使っていたテクニックであり、効率的に尺を使うだけでなく、ロボット作品ならではの高揚感も煽ることが出来る非常に優れた演出である。こういった基本的な演出を取り入れつつ、物語における「敵」の存在を暗示していたのが序であり、視聴者を上手く作品世界に引き込むことが出来ていた。個人的には、これ以上ない完成度の「掴み」であったと思う。


 (2)破1について

 リオとガロがそれぞれ窮地に陥る場面から、世界の真実が明らかになるところまでが「破1」であり、具体的な物語の飛躍、進行を担うパートである。

 破1を通して「プロメア」世界における真実は視聴者及び主人公に次々と明かされていく。物語のスケールの大きさを感じさせられ、今後控える最終決戦への予感を募らせるとワクワクが抑えきれなかった。

 また、ただの情報開示の時間とならないよう、リオのアクションシーンが挿入されているのが特筆すべき点である。こうすることによって、会話劇単品で物語が進行していくことを防ぎ、視聴者の興味関心を映画の中に引き続けているのである(クレイがバーニッシュであることを予感させる描写もある)。またリオの圧倒的な力を描くことによってリオの怒りの大きさ、そして普段どれだけ理性的に炎を起こし続けていたのかが良く伝わる。物語の性質上、リオのキャラクターは非常に言語化しづらい(リオの仲間は囚われの身、リオ自身のモノローグもない)。だからこそ、リオ・フォーティアという人間を表す行動として、破1におけるリオの暴走は単純なアクションシーン以上の大きな意味を帯びているといえるだろう。

 破1は物語の1つ目の山場であり、同時に最後の試練の困難さを暗示する場面でもある。ガロには「憧れの人の裏切り」、リオには「バーニッシュ全滅の危機」という試練がそれぞれ与えられ、かつクレイの左腕の描写がラストバトルの苛烈さを想起させる。物語に深みを持たせ、視聴者の興味をさらに強く惹きつけた破1も、やはり圧巻の構成力であったというほかない。


 (3)破2について

 リオデガロンVSクレイザーXの死闘、本作における事実上のラストバトルのシーンからガロがリオを助けるまでの展開を担っているのが「破2」である。本来であればラストシーンをより熱く描写するための小休止的な役割を担うことが多いわけだが、今回はプロメアという作品の特性と特質性故にこのような盛り上がり方を見せている。なので実質的な「急」としての役割を担っているともいえる。

 リオデガロンVSクレイザーXは本作一番の見どころなのだが、それは別章で語ることにしようと思う。ストーリーの進行という観点から見れば、ここで語れることは多くないのだ。

 (ファンとしてはドリルの登場に大いに興奮したと思われるが)破2において大きな役割を担ったアクションは「ガロとリオの人工呼吸」と「クレイへの鉄拳制裁」の二つである。前者は「絆の確立」を、後者は「憧れからの完全な脱却」をそれぞれ描いている。これらはこの作品のラストに繋がる大切な演出であると同時に、今作における「主人公の成長」を表すシーンでもある。バーニッシュへの偏見も、クレイへの過剰な憧れも、根底にあるのは[盲目的な信頼]である。それはガロ・ティモスという人間の精神的な未熟さを表していた。あの二つの行動は、そんな精神的な幼さからの脱却と、自身の心による判断を描いた大切なアクションだと言えるだろう。


 

 (4)急について

  ガロとリオによる世界の救済が「急」であり、今まで積み重ねてきたものの総決算としての役割を担う。

 TRIGGER作品全般に言えることだが(と言いつつさしてTRIGGER作品に触れているわけではないのだが)、この急が基本的に弱い。ラストバトルまでで全てを出し切っているために、その後はどうしても理論理屈とは離れた「熱」と「勢い」のみによって物語を運んでいるという印象が否めない。そして「プロメア」も例に漏れずそのパターンに嵌っていると言えるだろう。どうしたってご都合主義を感じてしまうし、意味不明だと思われる描写もあった。

 ただ無粋なことはツッコまない方がいいのだろうなという気持ちも確かに存在する。それほどまでに積み重ねてきた熱量が胸の中の幼さを満たしていた。これでいいのだと思えるのなら、それもまた作品としては完成されていると言えるのだろう。


 (5)まとめ

 「プロメア」のストーリーは「破」の盛り上がりに力を特に注いでいるため、全体を理性的な観点で見たらさして面白いとは言えないだろう。何故なら終わりが締まらないからだ。だが、実際に作品を見てみると、終わりに対しての不満はあまりない。ゼロではないが、それは笑って受け入れられる範囲のものだった。

 良くも悪くもTRIGGERらしい、勢いと熱量に満ちたストーリーであった。それはつまり、「グレンラガン」や「キルラキル」などのような作品を求めていた人々のニーズに合った作品であったということだ。そういう意味では、この物語を単品で評価しようなどというのは、そもそも見当違いなのかもしれない。

 「プロメア」とは、TRIGGER作品の系譜を聖火リレーのごとく受け継いできた作品なのだから。

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