列外章 D.C.

話数不明 Salus exeuntibus. ~懐かしい世界へ~

 ちょっと固い布の感触。

 俺は目を開ける。

 白い天井、やや青白いカーテン。

 ここは何処だ。

 そう思って気づく。

 何処だという事は無いよな。

 生まれてから一番長い時間を過ごした場所。

 つまり入院病棟の病室だ。


 俺のベッドは窓側。だから外が見える。

 この窓から見えるのは一見公園のような病院の敷地内と外の森、そして青空。

 そう言えば最後の記憶は手術前だったな。

 手術が終わり、それでも意識が戻らずそのまま、もしくは集中治療室等を経てこのなじみの病室に戻ってきたという事だろう。

 やや違和感を感じつつも俺は窓の外を見る。

 外の風景に違和感を感じるような、それでいて懐かしいような。

 ふと何かを思い出しそうになる。

 あの外の世界に行ったような、そしてその事を感じたような記憶を。


 勿論俺もずっと病院にいた訳では無い。

 退院していた期間もあったし、一時帰宅した時だってあった。

 でもそれとは違う何かがあったような気がする。

 今俺が見ている森を通して何かを思い出せそうな感じもする。

 でも今の俺には思い出せない。

 何かを感じた事があったような気がする。

 今わかるのはそれだけ。


 窓の下、前の緑道風の場所を女の子が通りかかる。

 彼女は俺から見た正面で立ち止まった。

 一瞬俺はドキッとする。

 知らない女の子だ。

 少なくとも今まで見た事は無い筈。

 でも何故か俺は彼女をよく知っているように感じる。


 彼女は俺の方を見て口を開いた。

「ねえ、いつもそこで何をしているの」

「外を見ているんだ」

 俺はそのままの答を彼女へ返す。

 他に答が無かったから。


「一緒に行こうよ。いつまでもここに居るよりその方が楽しいよ」

「身体が悪いんだ。あまり動くと倒れちゃうから」

 事実だけれど行けないことの言い訳。

 この台詞は俺の心の鍵だ。

 これで彼女は去って行って、俺も彼女も元の風景に戻るんだろう。

 俺はそう思ったのだけれど。


「試しに立ち上がってみてよ。もう大丈夫だから」

 えっ。

 俺はふと気づく。

 今までついていた点滴管が無い。

 試しに俺は立ち上がってみる。

 身体が軽い。

 思い通りに軽く動く。


「ねえ、一緒に行こうよ。外の方が楽しいよ」

 彼女はそう言って俺に手を差し出す。

 勿論物理的には俺には届かない。

 けれど。

「わかった。ちょっと待っていて」

 そして俺は……


               (da capo)

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