第254話 俺の失敗

「空気は冷たいけれど気持ちいい天気だよね」

 いや気持ちいいという事はあまりないと思う。

 俺としては部屋でジェット機の実証模型その2案を考えていたいのだ。

 でも誠に残念なことに誰にも賛意を得られ無かった。

 ただ今回は万能魔道具を取り上げられなかったので、身体強化を発動中。

 だから体力的には問題は無い。


 現在地は山の中。

 あの堰堤から入って谷側を上っている状態である。

 この方が魔獣が出やすいし植物の種類が多いからだそうだ。

「魔獣はどんな感じ?」

「今のところは問題無いわ。勿論呼べば出てくるけれど」

「動きがあるのは鹿魔獣チデジカ猿魔獣ヒバゴンくらいですね。大物は昼間は休んでいるようです」

「夕方の魔獣狩りには支障ない程度にはいるかな」

「誘導して貰えば問題無い程度にはね」

 なるほど。


「植物の方はどうでしょうか」

「寒い時期ですしあまり面白いものは今のところありません。この前採取したのと同じクレソンくらいですね。ブナの木は紙を作ったり家具を作ったりするにはいいのですが、改良する余地はあまり無いですし」

「布を作るにもブナは便利な素材かな」

 なるほど。

「あそこの葉っぱはダイコンソウで、昔は打ち身に効く薬草として扱われていたようです。ほかにも色々あるようですがこの季節はだいたい土の下です」


「ならちょうど尾根に出られる道があるし、そこから登ってみるか」

「そうですね」

「魔獣は大丈夫なようです」

 おいおい。

 ここから登るとなかなかの急登だろう。

 確かに今日の目的地は登らないといけない場所だ。

 でも出来ればそんな場所に行きたくない。

 俺はトレーニングなんて避けたいんだ。


 そう思った時にふと足下にある物を見つけた。

 ひょっとしたらと思って鑑定魔法を起動する。

 おっと、これは。

「ちょっと待ってくれ!」

 ごいごい登ろうとする皆さんを止める。

「どうしたのミタキ、まさか登りたくないなんで言うんじゃ無いよね」

 さすがミド・リー鋭いな。

 でも甘い。

「水晶の原石があった。うまく研磨すれば結構綺麗になると思うぞ、これは」

 小指程度の大きさだが先端部は綺麗に六角柱形をして青く色づいている。

 これは紫水晶だな。

「どれどれ、どんな感じ?」

 ミド・リーの奴、飛んできた。

 ほれと渡してやる。


「本当だ。結構大きくて綺麗」

「他にもあるかなあ」

 皆で囲んで見ている。

「確かにここの山にはありそうです」

 おっと、材料系専門家タカモさんのお墨付きがついたぞ。

「どういう場所で探せばいいかな」

「鉱脈がわかれば掘ってもいいのですが、今回は川沿いを下流に向かって探していった方がいいと思います。沢の底近くとか石が崩れた場所とかを探すと出てくる事が多いです」

 おっとこのまま帰るコースへの道が開けた。

「どうせなら何か収穫があった方がいいよね」

「探そう!」

 よしこれで楽が出来る。

 そう思ったのだけれども。


「ミタキ君は鑑定魔法を持っていますよね。それを使えば効率よく色々なものが探せるのではないでしょうか」

 おいちょっと待てアキナ先輩。

「見たものの鑑定は出来ますけれど、何処に何があるまではわかりませんよ」

「でもある一定範囲に目的の物が含まれているかはわかりませんか?」

 そう言われると……

 試してみると確かにわかるな。

 徐々に範囲を狭めていけば特定することも出来る。

 かなり魔力を消耗するけれど。


「とりあえずこの辺の、ここに……」

 ご丁寧に流れのど真ん中だ。

 水が非常に冷たいが仕方無い。

 取ると下の方は角が取れて平らになっているが上部に綺麗な結晶が残っている煙水晶だ。

 大きさは小指の爪よりちょい大きい程度。

 拾うと早速ミド・リーに奪われる。

「これも小さいけれど綺麗ね」

「本当だ」

「あるんだな、此処に」

 皆が石を見ている間に熱魔法でかじかんだ手を温める。

 水の中は無茶苦茶冷たかった。

 凍らないのが不思議な位だ。


「よし、ミタキをこき使って宝石探しよ」

 おいミド・リー、ちょっと待て。

「ここに他にとれそうな宝石はありますか」

 背後ではユキ先輩がタカモ先輩にそんな事を尋ねている。

「うーん……水晶の他にはトパーズとベリルがとれる可能性があります。私の鑑定魔法では探すところまでは出来ないですけれど」

「ならミタキをこき使うしかないわよね」

 おいちょっと待った。

 皆さんの目がマジだ。

 下手なことを言わなければ良かった。

 そう思ったがもう後の祭りという訳で……

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