第245話 ウージナの新型船
肉祭りも2日目になると少しは余裕がある。
食べ物以外の会話をする余裕も人によってはある訳だ。
「そういえば海軍で蒸気駆動の大型船を作っていますね」
その話題を持ち出したのはアキナ先輩だった。
「夏頃に小型蒸気船が出来たばかりですのに早いですね」
「高速小型戦闘艦の大量配備で運用の自信がついたようですわ。今回は大型船を数隻作ってブーンゴと交易及び軍事交流を活発にするつもりのようです」
ブーンゴはアストラムの西方にある友好国だ。
でも間にスオーの国土を挟んでいるからあまり貿易等の行き来は無かった。
でもそうか。
蒸気駆動の小型戦闘艦で近海の制海権を握ったからその次を目指す訳か。
「最近国内でも色々なものが手に入りやすくなったしね。鉄合金なんかも西海岸製の安いのが手に入るようになったし」
「秋の半ばころから外洋廻りの輸送船が一気に増えましたしね。イヨーの私掠船がいなくなりましたから」
米など今までは入らなかった品物がウージナにも来るようになった。
元々運河は発達しているし内航船でも輸送は行われていた。
でも沿岸航行用の輸送船は運河用の輸送船と比べると大きさも速力も大幅に勝る。
これもこの近海の制海権を握ったことによる影響だろう。
その辺の変化がこの冬になって一気に出てきた感じだ。
それにしても動きが早いよな。
この世界にはシモンさんのようなチートな工作系魔法使いがそれなりにいる。
だから地球あたりと比べると工作物的なものの普及が異常に早いのだろう。
「それにしても大型船ってどれくらいの大きさなのかな。ウージナに来ている外洋廻りの輸送船よりは大きいんだよね、きっと」
外洋廻りの輸送船は確か全長
「長さが輸送船の倍以上ある巨大な船のようです。ウージナの港に浮かんでいるのを見た限りでは」
「ちょっと見てみたいな。港の方にはあまり行かなかったから知らなかったし」
「もしウージナの港にいるなら……いた。それも3隻」
フールイ先輩は手持ちの魔道具で見えるようだ。
どれどれ、俺もつけっぱなしの魔道具で見てみる。
「何なら私が移動魔道具をもっていない方に中継いたしましょうか」
「お願いします」
オマーチの3人が頭を下げた。
他は皆さん自分の移動魔道具があるし見る事が出来る。
シンハ君の魔力でもそれくらいは可能だろう。
見てみると……確かにかなり大きい。
大分暗くなった中でもはっきりわかる。
鑑定魔法で見ると全長
そして鑑定魔法で見る事が出来るという事は情報規制をしていないという事だ。
機関部分だけは流石に鑑定魔法でも見る事が出来ないようになっているけれど。
そして同じ形の船が3隻ある。
「形もいままでの船とは違いますね」
「帆が一切無くて煙突がある。間違いなく蒸気機関だね」
マストのような一番高い柱の最上部に魔法アンテナらしきものがついている。
あれは索敵用、もしくは攻撃用だろうか。
その他にもやや高い柱の上に魔法アンテナらしきものがついている場所が3か所。
あれは主砲とかそういったものの代わりなのだろうか。
「あれならブーンゴと行き来しても襲われる事は無いでしょうね」
「というかあんなのが敵だったらどうしようもないな」
シンハ君の台詞に俺は頷く。
確かにそうだろう。
あれだけの大きさがあれば多少のダメージは無視できる。
シモンさんのような工作系魔法使いと資材の予備があれば修理も簡単。
中に複数の魔法使いがいれば防御魔法だって展開できるだろう。
元々海戦は大きい船の方が圧倒的に有利なものだと聞いた。
ここの海で大型船がいないのは風や海流のせいで大型帆船が戦闘できるような機動が出来ない為。
ただ蒸気機関なら関係ない。
燃料と機関が許す限り大きくできる。
しかも高さの分より遠くまで見渡せるし魔法アンテナの威力で敵を見つけやすい。
「あとあの後ろ部分が開きそうなのは何故だろう。暗くて見えにくいけれど」
確かに後ろの部分が手前に倒れて開きそうな感じだ。
あれはひょっとして……間違いない。
鑑定魔法もそうだと告げている。
「あそこを下せばそのまま橋のようになって港からそのまま歩いて船の中に物が積めるんです。馬車なんかも乗ったまま中へ入れる事が出来ます」
俺は今馬車と言った。
でも皆さん気付くだろうか。
「馬車ではなく蒸気自動車だろうな、きっと」
ヨーコ先輩があっさりそう口にした。
そう、あれはきっとフェリーと同じランプドアだ。
つまりあれは、おそらく蒸気自動車の運用を前提にした輸送艦。
正確には輸送攻撃艦とでもいうべき代物だ。
あれは色々な意味で国内・国際情勢を一気に動かしそうな気がする。
運んでくるのは豊かさなのだろうか。
それとも不安なのだろうか。
未来を視る事が出来ない俺にはまだわからない。
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