第244話 肉まみれはお約束

半離1km以内に猿魔獣ヒバゴン3匹、猪魔獣オツコト1匹、鹿魔獣チデジカ1匹がいるわよ」

 ミド・リーの索敵結果を聞いたヨーコ先輩は頷く。

「なら今日はその合計5匹だな。猿魔獣ヒバゴンは食べられないけれど色々有害だから退治しておこう」


「数が多いから一気にやる」

 フールイ先輩が前回熊魔獣を落としたところに今度は爆発音無しで穴をあける。

「今度はどうやって穴を掘ったんですか」

「移動魔法で内部の土を移動させた。重いけれど今のこの杖なら簡単」

 なるほど、そういう方法も取れるのか。

 よく見るとちょっと離れたところに小山が出来ている。

 あれが移動させた土なのだろう。


「では前回と同様に空気を冷やして液体にしますね」

 液体窒素が穴の底に溜まる。

 そういえば酸素の方が窒素より重いけれど大丈夫なのかな。

 そう思って鑑定魔法で確認してみる。

 確かに酸素の方が本来は窒素より重い。

 でも窒素の方が沸点が低くて先に蒸発していて、かつ窒素の温度が低いせいで穴の中はほぼ窒素のみ。

 つまり酸欠状態だ。


「それでは獲物の場所を方向と距離で」

「わかったわ。まず猿魔獣ヒバゴン、ここから西に250腕500m北へ127腕254m

「確認、処理する」

 ……

 そんな感じであっという間に猿魔獣ヒバゴン3匹、猪魔獣オツコト1匹、鹿魔獣チデジカ1匹の狩りが終了した。

 穴の中を換気して獲物を外に出して埋め戻す。

「真面目に狩りをやっている人に申し訳ない感じがするよね、これ」

「自分でやった事だけれど同意」

「俺なんかから見ると自動で獲れているようなものだもんな。運ぶだけで」

 5匹だと流石に1回では運べない。

 2回に分けて下の船着き場まで持っていく。


 今回は獲物の数が多いので解体が出来る4人総がかりだ。

 猪魔獣オツコト鹿魔獣チデジカは肉と皮が有用で内臓も食べられるからフールイ先輩とシモンさんで。

 猿魔獣ヒバゴンは皮だけだからヨーコ先輩とシンハ君で。

 とりあえず内臓を抜いて水中につるせば今日は終了だ。

 なお鹿魔獣チデジカ猪魔獣オツコトは腸の部分をひっくり返して念入りに洗っている。

 これは食べるからよろしくという圧力だなきっと。


 ここからは昨日の肉祭りと同じだ。

 洗って洗って洗って切って、物によっては煮込んで煮込んで煮込めば完成。

 今回は鹿魔獣チデジカ猪魔獣オツコト両方あるから食べ比べ。

 更に今朝処理した鹿魔獣チデジカ肉の刺身も並ぶ。

 レバ刺しの食べ比べなんて贅沢だが、1匹ずつなのであっという間だ。

 タンももっと取れると楽しいけれど1匹ずつなので……以下同じ。

 ハツの強い肉の旨味も美味しいけれどやっぱり……

 勿論他の部位も美味しい。

 ただ一つ一つの部位の量が限られるのでこの人数だと2口程度で終わってしまう。

 大量にとれるのは腸と胃袋くらいだし。

 ただ胃袋も処理が面倒だがかなり美味しい。

 茹でて皮を剥いた後の白い部分がさっと焼いてもじっくり焼いてもいいのだ。

 コリコリしていて噛むととじんわりと甘みと旨味が出てくる。


「美味しいくて勿体ないよね、食べるのが」

「でもこの贅沢が出来るのがここのいい処だよな」

「魔獣の刺身は昨日が初めてですけれど美味しいですね」

鹿魔獣チデジカ猪魔獣オツコトどっちが美味しい?」

「うーん、甲乙つけがたいけれど私は鹿魔獣チデジカのハツでしょうか」

「私は猪魔獣オツコトのタンかな。ハツも捨てがたい」

「美味しいけれど毎日これだと食べすぎになりませんか」

「またトレーニングを開始しましょうか」

「昨年は酷い事になりましたからね」

 昨日獲った鹿魔獣肉の刺身も当然美味しい。

 今回は煎酒とホースラディッシュがあるので刺身に醤油とワサビ気分で食べる。

 うん、これも最高。

 なお肉は充分あるから熟成させながら食べる予定だ。


「そういえば猪魔獣オツコトを狩ったなら当然ソーセージも作るよな」

 ヨーコ先輩に請求されてしまった。

「小腸を塩漬けにしてありますからいつでも出来ますよ」

 それっぽい岩塩もハーブ類も高価な香辛料も当然購入済みだ。

「なら明日朝の作業や買い出しが終わったらソーセージ作りだな」

「でも肉ばかりで飽きませんか」

「刺身と焼き肉に飽きる前にソーセージで口直しをするのだよ」

「俺も賛成」

 これだけ肉を食べていて更に肉の事を考えるとは。

 ヨーコ先輩もシンハ君も流石だな。


「でもその前にタカス、いつもの魔法なのだ」

 フルエさんが請求しているのは胃袋整理魔法だろう、きっと。

 合宿2日目の夜も肉まみれで過ぎていく。

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