第234話 植物品種改良魔法発動中

「この前はこうやってこの辺の森とかを歩いたりしなかったな」

「そうですね。こうやって歩いてみるのも面白いです」

「ミナミさん、この辺の植物はどうですか」

「私が使える被子植物はブナだけですね。抗魔属性があるものもありますが、これなら先ほどのクレソンの方が使いやすそうです。ただこういう場所を歩くのは楽しいですね」

 皆さん体力があるようだ。

 俺は山に入った時から身体強化を使っているけれど。

 また明日は動けなくなるかな。

 あの時の登山程きつくはないからそこまで酷くはならないかな。

 そんな事を思いながら歩く。


 あたりは落ち葉が積もった落葉樹林。

 冷たい空気が程よく気持ちいい。

 あとこの新開発のアウトドアジャケットは確かに優れものだ。

 汗を逃がす癖に寒くならない。

 販売したらきっとこれも人気が出るな。

 見かけでは機能がわからないから最初はじわじわという感じだろうけれど。

「ブナの実が大分落ちていますね」

「でもほとんどが食べられています。小動物が多いのでしょう」

「小魔獣も探せば結構いそうですね」

「いますよ。小魔獣はこっちに向かってこないから気づかないだけで」

「いるんですか」

鼠魔獣ガンバ辺りならそこここに。落ち葉の下に巣穴を作って潜っていますけれど」

 そんな解説代わりの会話を聞きながら獣道を上る。


 上りきったようでちょっと広い場所に出た。

「枝が多くて視界は良くないな」

「これでも葉が落ちている分見える方ですね。夏等はきっと茂っていて中も暗いと思います」

「やっぱり下草はほとんど無いね」

「小さいのも細いのもブナばかりです」

「でも鹿か何かに結構囓られているね、細いのは特に」

 皆さんよく見ているな。

 俺は単に森だなと思う位だけれども。

「景色は今ひとつだけれどいい散歩になったな」

「空気が気持ちいいよね。寒いけれど」

 そんな訳で再び来た道を戻る。

 下りるのは例によってあっという間。

 山道の入口、荷車を置いたところまでたどり着いた。


「結局使えそうな植物は1つだけだったな」

「でもこれはなかなか良さそうです。早速色々やってみようと思います」

「魔法杖も新しいのが出来たしね」

 植物の加工操作ってどんな感じなんだろう。

 ちょっと見てみたい。


「ところで狩りの対象になる大型魔獣はどうだった?」

「結構豊富よ。今回はユキ先輩が魔法で動かしてくれたから出会わなかっただけ。何もしなければ今のコースだと猿魔獣ヒバゴン2匹に鹿魔獣チデジカ4匹かな。ユキ先輩は猪魔獣オツコトも含めもっと動かしていたけれど」

「そんなにいたんですか」

「狩りの対象には困らない位にはね。これだとまた補助金全額コースかな」

「今年は少し増やしたらしいぞ」

「どれくらい?」

「焼け石に水って程度だそうだ」

「何ですかそれは」

「ここの砦の指令がそう言っていたんだ、本当に」

 それも何だかなと思う。

 昨年の狩りまくったイメージがまだ残っているのだろうか。


 砦に戻って早速ミナミさんは植物の改良に入る。

「まずは種を取ります。クレソンは水に付けた状態の方がいいと思いますので、バケツに水を入れて中に入れて」

 さっき採取したうちの一株をバケツの中に入れる。

「それでは促成栽培を始めます。あ、これは使いやすくていい感じです」

 ミナミさんがそう言っている間にもバケツ内の植物は茎が伸び白い花が咲き、さや状の種を多数つけた。

「凄い、本当にあっという間ね」

 生物魔法の使い手であるミド・リーが驚いている。

「私の魔法は植物の操作に特化していますから。でもこの杖とてもいいです。焦点を絞りやすいですし威力があるけれど扱いやすいし」

 ミナミさんの杖はミド・リーやユキ先輩と長さも仕様も同じものだ。

 つまり超高速促成栽培や遺伝子操作も生物系の魔法の一分野という事なのだろう。

 

「それでは種を取って、色々加工してみますね」

 種はごくごく小さい。

 それを丁寧に手で取ってテーブルに並べる。

 ミナミさんはそこから十数粒を取り出し紙にのせテーブルの別の場所に置いた。

 そして魔法アンテナの先を取り出した種に向ける。

「それではまず分析。うん、抗魔作用というのも魔法の一種ですから、根や茎により魔力を蓄積して、かつ抗魔作用そのものは出来るだけ減らす方向でまず調整してみます。茎は太目で加工しやすいよう柔らかく、葉も同じように柔らかく魔力が入った感じにして……」

 魔力が動いているのはわかるが対象が小さすぎるのとやっている事自体への知識が足りないのとでよくわからない。

 そんな訳でミド・リーにこそっと聞いてみる。

「わかる? やっている事」

「私でも何となくという感じ。これはちょっと真似出来ないわ」

 生物魔法の天才ミド・リーがそう言うんじゃ俺がわからないのは当然だな。

 そう思って自分を納得させる。

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