第227話 まさかこんな終わりとは

 展示のある教室に戻ってみるとミド・リーとフルエさんが展示室番をしていた。

「あ、いたいた。連絡つかなかったけれど何処行っていたの?」

 ミド・リーにいきなりそう聞かれる。

「すみません。保秘のため外部遮断かけていました」

 相変わらずナカさんは色々な魔法隠し持っていて使うよな。

 いや違う問題はそこじゃない。


「何かあったのか?」

「去年と同じよ。優秀発表団体の表彰」

 そう言えばそういうものもあったな。

「すみません。外部遮断かけていたから放送魔法も一切入っていないんです」

「去年と同じくヨーコ先輩とシンハを行かせたからいいけれどね」

 いいのだろうか。

 まあ俺としては自分が犠牲者にならなかったのを喜んでいるけれども。


「どんな賞を取られたんですか」

「何と学園祭最優秀賞なのだ」

 驚きも喜びもほとんど感じない。

 まあ今年も発表が派手だったしな。

 動画でもかなり人を集めたし仕方無い。

 俺の感想としてはそんな感じだ。


「凄いですね。最優秀ですか」

 事情を知らないオマーチからのお客様はそう褒めてくれる。

 でも。 

「申し訳無いですよね。去年も頂いてしまいましたし」

 ナカさんの台詞に昨年と同じ面子は思わず頷いてしまう。

「皆さん喜び方が薄いですね」

 タカス君にそんな事を言われる状態だ。

「反則技かつ力尽くで優秀賞を貰っているような気がしてね」

「発表内容が学生レベルではないですからね。仕方無いと思いますよ」

 ターカノさんまでそんな事を言う状態だ。

 おいおい。


「でも取りあえずめでたいのは確かなのだ。そろそろ表彰も終わるし上の部屋も終わるからとりあえず祝うのだ。ケーキセットは全員分余裕であるのだ」

 この前姉貴に差し入れさせたのと同じスティックケーキとドリンクのセット。

 予約して昼前に俺が買ってきた奴だ。

 数は例によって人数分の倍。

 だからお客様の分も充分ある。

「ただいまー。上は終わりました」

 ユキ先輩とフールイ先輩が戻ってきた。

「表彰式は?」

「ヨーコ先輩とシンハ、昨年と同じよ」

「了解」

 するとちょうどそこへ。


「ただいまー。貰ってきたぞ」

 ヨーコ先輩とシンハ君がトロフィーだの表彰状だの持って帰ってくる。

「いやあ、2年連続2回目受賞、他の研究会の視線が痛かったぜ」

「そうそう。あんな展示反則ですよという感じがたまらなくてさ」

 おいおいシンハ君はともかくヨーコ先輩もこんなだったっけか。

 でもまあいいかここの中でくらいは。

「片付けは明日にして取りあえずは祝勝会だな」

「ちょうどケーキを配るところだったのだ」

 そんな訳でお客様交えてささやかな祝勝会がはじまる。


「あとは冬休みだな。合宿は去年と同じでいいか」

「魔獣の革も役だったしね。でも先輩達は受験だけれどいいのかな」

「入試程度の問題、間違えなければ大丈夫だ」

「同意」

 ヨーコ先輩もフールイ先輩も強気というか何というか……

「合宿に行かれるんですか」

「長期休みは大体半分くらい合宿だなここは。冬は前半が魔獣狩り、後半が温泉だ」

「温泉って何ですか」

「要は自然にお湯が出ている大きい風呂だよ。似たような物は研究室の上にも作ったけれどさ」

「そう言えば研究室の2階部分は見ていなかったですね」

 あ、それは……


「ならやるか、風呂パーティ。ボイラー起動して3半時間20分もあれば使えるだろあそこ」

 おいちょっと勘弁してくれ先輩。

「でも今日はお客様もいるし」

「水着のスペアは結構あるから大丈夫ですね」

「夏に色々買い出しましたし」

 あ、これは悪いパターンだ。

 俺とタカス君は顔を見合わせる。


「面白そうですね」

「今日は安息日ですし、3人は私が責任持って送り届けますから。遅くなると言う連絡も今しました」

 ターカノさんこんな時に有能ぶり発揮しないでくれ。

「ならパーティ用にちょっと買い出しをしておきましょう。学園祭の模擬店が投げ売り状態ですからちょうどいいですわ。シモンさんとミタキ君はお風呂の準備をお願いします」

「学園祭があったから久しぶりですね、あそこを使うの」

「大きいお風呂って初めてです。どんな感じなのでしょうか」

「なかなか気持ちいいわよ。今日はほどよく寒いからちょうどいいわ」

 こうなってはもう取り返しがつかない。

 俺は皆に見られないよう小さくため息をついた。

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