第226話 未来予知の魔法
他にも大型魔法アンテナとか色々見せて、最後に備え付けの機械類を案内する。
最後に備え付け蒸気機関で動かす発電機を説明した時だった。
「出来ればこれと同じものが私達も欲しいですね。これがあれば私の魔法以上に色々な素材を作成したり分離したり出来るように思えます」
まさか発電機に興味を示すと思わなかった。
発電機で動くモーターとか電球に興味を示すならわかるけれど。
しかも視点が思い切り素材寄り。
確かに電気分解とか出来るけれどそんな事まで魔法でわかるのか。
流石素材スペシャリスト!
ターカノさんはちょっと考える。
「ちょっと私の一存では判断できないですね。専門家の応援を呼ばせていただきます。先ほど紹介していただいた空間系魔法用大型魔法杖を使わせていただいていいでしょうか」
以前フールイ先輩が使っていた魔法アンテナのことだ。
今はもっぱら俺を原油採取に送り出す時に使っている。
「いいですわ。でも何をなさるのでしょうか」
「学園内は本来は魔法移動で入る事は出来ないのですけれどね。例外としてこういう魔法の使い方が出来るんですよ。少々魔力を使うのであまりやりませんけれど、この杖があれば」
そう言ってターカノさんは杖を構える。
「これはいいですね。異常な程強力で。そんな訳で行きますよ。ジゴゼン召喚!」
なぬっ。
そう思った時には杖の先に人間が一人転がっていた。
灰色の上下つなぎ型作業服姿のジゴゼンさんだ。
どうも作業をしている最中だったらしい。
起き上がり、いぶかしげに辺りを見回した後ターカノさんを見る。
どうやら何が起こったかに気付いたようだ。
「何ですか。せっかくいい処でしたのに」
「少し別の事を考えた方がいいと思いまして。というのも半分本心ですがご相談です。蒸気機関とこの機械のセット、むこうの研究院で是非欲しいと言っているのですけれど、その辺の評価と手続きをお願いしたいと思いまして」
「仕方ないですね」
そう言ってジゴゼンさんは発電機の方を見る。
「これもかなり革新的な技術だからいずれと思っていたのですけれどね。要は魔法と同じように色々な事に使える力を作成するものです。ただまだ外に出すには少し早すぎるかと思います。ですので今回は権利関係はそのままで物の貸与という事で処理しましょう。そちらの研究院には蒸気機関とセットで無償貸与とします。ここの研究室には使用期間中、月額
俺達は顔を見合わせる。
「それじゃ高すぎて申し訳なくないかな」
「開発者の2人さえ良ければ文句は無いですわ」
「会計担当としても同意見です」
「でもいいのか。月額
「他に代替できるものがありませんからね。こういう時はふっかけていいものなんですよ」
ジゴゼンさんの台詞にターカノさんが頷く。
「それでは解決といたしましょう。ジゴゼン、現物作成はお願い出来ますか」
「今週中に何とか致しましょう。これの構造は……ああ、また見たことないような特殊な羽根車を使っているし軸受けもあのボールタイプだわ。でも何とかします」
「それではお願いしますね。あとせっかくですからお風呂くらい入った方がいいと忠告しておきますわ。微妙に臭いますから」
「言わないでください」
そこで俺はあるものを思い出す。
「ジゴゼンさん、少し待ってください」
俺の研究スペースにある大型の缶と小さな缶を一つずつ持って来る。
「原油で作った高熱用の潤滑油2種です。こっちの方が蒸気機関用には便利かと思います」
蒸留して残った重い油を精製しなおしたりして作ったものだ。
「おお、これは掘り出し物ですね。ありがたくいただいておきます」
「あ、それでしたらもう少し待ってください」
向こうの研究室から来た女子の一人が反応した。
「でしたらもう少し私の魔法で成分を調整します。何か空き缶のようなものはありませんでしょうか」
「それだったら」
シモンさんが自動車整備に使用しているらしい上が空いた缶を持って来る。
「それでは精製します。これが有用成分だから、それ以外は……」
開いた缶に黒い油が溜まっていく。
若干異臭もするような。
缶の底に黒い油が溜まり切ったところで彼女は顔を上げた。
「これで不純物がかなり除かれたと思います」
「凄いですね。これは流石に真似できません」
「同じくだよ」
除かれたのは余分なカーボンだの硫黄だのといった不純物だ。
「うちのも後でお願いしていいかな。これだと劣化が大分少なくて済む」
「いいですわ。このくらいの事でしたら難しくありませんから」
そんな訳で俺が原油から作ったジェット燃料だの潤滑油だの固形グリスだのも全部不純物を除いてもらう。
「これが自分で出来たらなあ。材料開発が大分進むんだろうけれど」
でも魔法杖の長さがわかれば出来ない事も無いよな。
それなら後に魔法杖を作ってもらって……
「何を考えているのか大体想像できますけれど駄目ですよ。特殊すぎる魔法についてはこちらから許可が出てからにしてください」
ジゴゼンさんには俺の考えていることがバレバレだったようだ。
「わかりました」
「それではジゴゼンを先に送ります。今日は魔力に余裕がないので」
そりゃオマーチから自分含めて4人も往復させれば魔力も限界だよなと思う。
そんな訳でジゴゼンさんとお土産の潤滑油は強力魔法アンテナで先にオマーチへ。
「それにしてもこの魔法杖、大きいですけれどそれ以上に強力かつ凶悪ですね」
「以前これで過去を見ようとした人がいましてね。それでここの研究室で出来る範囲で最強に近い状態にしたんですよ」
「確かに未来を視るより過去を見る方が楽です。数年程度でしたら特に」
そう言ってターカノさんは杖を構えなおす。
「視界が前方方向に極端に限られますけれど、その範囲では本当に強力です。これなら慣れていない人でも数年程度の過去を見る事は可能でしょう」
「時間を超えて見る事が出来るんですか」
向こうの女子の一人が驚いている。
「時間も距離とある種似たようなものです。未来は定まっていないので色々扱いが難しいですけれど、ある程度近い過去なら魔法で確認できます。あまり知られていませんが犯罪捜査でもまれにですが使われる方法です」
そうだったのか。
俺も知らなかった。
「ならもっと強力なものを作れば未来も」
「それは無理なんです」
何故だろう。
俺だけでは無くその場の全員がターカノさんの方を見る。
「未来は確実には定まっていません。可能性の高い世界が無数に重なっている状態です。その中から必要な事を読み取るのは魔力以上に知識や経験が必要なんです。ですのである程度魔法が強力になってもそれだけでは未来予知はできないんですよ」
「という事は、ターカノさんも」
彼女は頷く。
「ええ。ある程度の未来は見る事が出来ます。でもそれを見分ける力はまだまだ足りない状態ですね。正直な処」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます