第216話 別の研究室の存在

 集合は4時ぎりぎりになった。

 並んでいる人間がはけるまで上映をしたら時間が掛かってしまったからだ。

 一応3時過ぎた時点の列の最後で締め切ったのだけれども。

 何か時間が経つにつれて列が伸びていった感じだ。

 明日からは平日だから少しは人が減るだろうけれど。


 さてそんな訳でいつもの研究室内会議室。

 全員分のお菓子とお茶を用意して会議が始まる。

「今回も思った以上に色々出してきたな、それが率直な感想かな。空飛ぶ機械第二弾も予想外だったし動く絵がみられるとも思っていなかった。あの便利道具シリーズは既に結構売れているみたいだし個人的にはあの自転車が1台欲しかったりする。あれがあればもっと気軽にあちこち出かけられそうだからね」

「あんまりあちこち気軽に出かけられると困りますけれど」

 ターカノさんがさらっと釘をさす。


「こっちとしては昨年程度の発表を見に来たつもりだったんだけどね。いい方向に裏切られたかな。特にあの動く絵、まさかあんなのがあるとは思わなかった。やられたというか悔しい気さえするのが率直なところだ。実際こんなの想像さえできなかったからね」

 ターカノさんの台詞をあえて無視して殿下は続ける。

「さて、そんな訳で個々の色々についても話をしたいところだけどさ。まずは今回持ってきた話からしようと思う。

 実は別の研究院でやはりここと同じように独自研究をしているグループがあるんだ。どこの学園とは言えないけれどね。

 ただあっちはこっちに比べると少々閉鎖的かつ人見知りする連中が多くてね。僕も出入りしない方がいいなんて言われて専らターカノとジゴゼンに任せている状態だ。

 さて、そこでジゴゼンとターカノからあるお願いがある。そんな訳であとは頼む」

 お願いとは何だろう。


 ジゴゼンさんが一礼して口を開く。

「まずはこの見本を見て頂けますか。向こうで作った材料でこちらの研究室が欲しがると思われるものです」

 厚さ半指5mm程度のカード大のもの3種類がそれぞれに回る。

 一つは黒くて柔らかく、残り二つは金属だ。

 お、これは。

 黒い柔らかい物は間違いなくゴムだ。

 それも単なるゴムではなく加硫したりカーボンを加えたりした加工品。

 これがあればタイヤも猪魔獣オツコトの革を使わないで済む。

 他にも色々使えそうだ。


 残り2つのうち一つはアルミ系の合金だ。

 いわゆるジュラルミンの類い。

 でも確かアルミは電気分解しないと出来ない筈だ。

 電気という知識が無いこの世界でどうやって作ったのだろうか。

 そこが謎だが使えるなら大変ありがたい素材だ。

 何せ鉄に比べて段違いに軽い。

 強度もその分弱いけれどそれは形状で何とかなる。


 最後の一つは鉄系統の合金。

 ニッケルとクロム、タングステンなんてこの世界で初めて見るような金属まで含まれている。

 狙いは明らかに耐熱性の向上だ。

 800度程度までなら実用的な強度を保つことが可能。

 これがあればジェットエンジンのタービン部分をおそらく作れる。

 

 3種類とも確かに欲しい素材だ。

 でも俺の理解できる範囲では3つともオーパーツに近い。

 この国にはゴムの木はおそらく無いし石油化学工業なんてものも当然ない。

 アルミはさっき考えた通り電気分解しないと作れない筈。

 最後の合金に至ってはこの国で精製されていない筈の色々な金属を思い切りよく含んでいる。

 普通の方法でこれらを手に入れる事は不可能だ。

 少なくとも俺の知識はそう判断する。

 わからない事は率直に聴いてみよう。

「これらの素材は確かに非常に有用です。でもどれもこの国で作る事は出来ない筈です。参考までにどうやって作ったか教えて頂けますでしょうか」


 ジゴゼンさんは頷いた。

「そう言われるだろうと向こうも言っていましたね。

 この柔軟な物質は既存の植物を改良して専用の植物を作り出して生産しています。なおそのままでは実用にならないだろうという事で若干加工してあるそうです。

 そしてこの金属2種。これはこれを見せて説明するように言われました」

 出てきたのは石と金属の見本。

 鑑定魔法で見てみる。

『石の方はアルミノケイ酸塩鉱物、金属はアルミニウム』

「材料になる岩石とその精製品ですね。でも普通の方法ではその石からその金属を分離させるのは困難だったはずです」

 この鉱物はアルミを含む一番一般的な鉱物だがケイ素との結合が強く精錬が難しい

 だから前世世界ではアルミノケイ酸塩鉱物を使わずボーキサイトを使ってアルミを精製していた筈だ。


「この鉱石から直接この精製された金属を取り出す魔法がある。そう説明すればわかってもらえるでしょうと言っていました」

 思考が一瞬何それは! 状態になる。

 ちょっと待った! そんなチートありか!

 そう言いたいのだが無理矢理思考を落ち着かせて考え直す。

 考えてみれば工作系魔法だって充分チートだ。

 物体移動とか熱加工とか色々なものの組み合わせ。

 そう考えると魔法の働きがミクロになっただけで似たようなもの……

 それでも微妙に納得できないけれど、まあそういう風に理解しよう。


「あと専用の植物を作り出したとはどういう事でしょうか」

「魔法の使い手は金属精製とは別ですけれどね。植物種子の中に存在する設計図部分を改変する事が出来る能力だそうです。出来るのは被子植物だけと言っていましたけれどね。生物魔法と組み合わせると1か月程度で新たな品種を生み出す事が出来ます。そういった特殊な魔法持ちが中心になっているのが向こうの研究室です」

 なるほど。

 確かに素材系が色々手に入るのはありがたい。

 植物系も鉱石系統もというのは随分と範囲が広いけれども。

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