第213話 買い食いの時間

 次に行った剣術研究会の屋台でも同様だった。

「あれシンハ、今日はヨーコ様と一緒じゃ無いのか」

 同学年の男子にいきなりそう聞かれている。

「先輩は今当番で熱気球の方をやっている」

「珍しいな。ヨーコ様と一緒じゃないなんて」

 先程とほぼ同様の扱いだ。


「そんな事を言うと売り上げに貢献しないぞ」

「いや強制的に売らせて貰う。チーズフランク3人分な」

「何だよそれ」

「裏切り者への罰だと思え」

 そんな事を言いつつも相手は笑顔でチーズフランクを焼いている。

 なおここでのチーズフランクとはその名前の通りの代物だ。

  ① 縦にくし刺しにしたフランクフルトを

  ② 油が出始めるまで焼いた後

  ③ チーズで包んで更に周りを熱魔法で軽く焼き

  ④ 外側のチーズが焼けて固まったら完成

 これは何気に作るのが難しい。

 うまく焼かないと包んだチーズが溶けて落ちてしまうのだ。

 ただうまく焼けるとなかなか美味しい。

 チーズ部分の外側はパリパリで中がとろーりなのだ。

 なお食べる際にはカロリーを考えてはいけない。


「まあヨーコ様の相手が出来るのはシンハだけだから仕方無いけれどよ。ほれ3本で正銅貨6枚」

「おいよ」

 シンハ君が払ってチーズフランク入りの箱を受け取る。

「それでヨーコ様と何処まで行った。AかBかムフフなのか」

「只のトレーニング相手だ」

「夜のトレーニングとか」

「そんなんじゃないって」

 相手はニヤニヤ、シンハ君は本気で焦っている。

「まあうまくやれよ。男子全員で呪ってやるから」

「呪うのかよ!」

「ファンクラブ全員でさ。ほれ行け裏切り者」

 そんな感じで店を後にする。


「何かシンハ、何処でもヨーコ先輩の事を言われているよね」

「ミド・リーまで裏切るなよ。ただ勉強を教えて貰ったりトレーニングしたりしているだけだしさ」

「でも間違いなく一番長い時間一緒だよね」

「フルエもだいたい一緒だぞ」

「でもフルエちゃん言っていたよ。『私は席を外した方がいいのかもしれないのだ』って」

「おい待て!」

 そんな事を言いながら適当なベンチを探す。

 なお途中で俺は確かめたかったある模擬店の状況を確認した。

 うん、どうやら結構売れているらしい。

 でもミド・リーやシンハ君にバレたくないから訪問は後だ。

 ベンチを見つけ、買ってきたものを3人で分けて簡単な昼ご飯にする。


「すまないな、何か俺だけ買っていなくて」

「ミタキは後でおやつを全員分買わせるから問題無いわよ」

「何だそりゃ」

「何やかんやいってエン姉のところが一番美味しいからさ」

 今年も姉貴は店を出している。

 今年はちょっと工夫した自信作らしい。

 それにしてもチーズフランクとサンドイッチだとお腹にたまる。

 サンドイッチも30cmくらいあるバゲット地のパンに色々詰め込んだ代物。

 でかいがその分ハムとか生野菜とか魚フライとか色々入っていて美味しい。

 俺だけ食べるのが遅いけれどいつもの事だ。


「さて、次はおやつの買い出しね」

「はいはい」

 場所はわかっている。

 そしてやっぱり列が出来ていた。

 仕方無いので並ぶ。

「やっぱりここは人気だよね。大丈夫かな」

「一応予約はしてある。15人分」

 多い分は出没の可能性があるやんごとなき御方とお付きの苦労人用と予備だ。

「何を頼んでいるの?」

「わからない。今回は新製品って言っていた」

 姉貴は何やかんや言って研究熱心だ。

 新製品の開発にも余念が無い。


 混んではいるが客が流れるのも早い。

 どうも今回は品数を抑えているようだ。

 しかも姉貴本人と店員3名の4人体制でやっている。

 本店の方は大丈夫なのだろうか。

 前回もそんな事を思ったような気がするけれど。

 俺の番が回ってきた。

「あ、弟さんね。この箱です。小銀貨4枚3000円正銅貨5枚500円になります」

 顔なじみの店員さんが渡してくれた。

 用意していたお金を払って箱を受け取る。

 結構大きくて重い箱だ。

「中にお茶も入っていますので気をつけて」

 他のお客さんがカップで買っているお茶も入っているのだろう。

「俺が持とうか」

「頼む」

 シンハ君に渡す。


「何処へ持っていく?」

「教室がいいんじゃない。熱気球組も終わったらあそこに戻るし」

「だな」

 シンハ君に箱を持って貰って展示をやっている教室へ。

 教室は展示品が並んでいる前半分と仕切ってある後ろ半分に別れている。

 後ろはアニメを上映する場所だが今はまだ空いている状態だ。

 そこへ持っていって箱を開けてみる。

 お茶入り紙コップとスティック状の白いケーキが2段になって入っていた。

「お茶はちょっと甘めのレモンティー、ケーキはレアチーズスティックケーキだって。ケーキは葡萄、レモン、りんご、イチゴ入りの4種類があるみたい」

 ミド・リーが中の説明書きを読む。

「カップ横にスティックケーキを入れる折りたたみポケットがついている。食べ歩き用だなこれは」

 見るとケーキもポケットに入れられるよう横と下を薄いビスケットで固めてある。

 なるほど、お祭り用に食べ歩き容器と一緒に開発した訳か。

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