第23章 二度目の学園祭

第212話 焦るシンハ君

 昨年の経験を活かし今年は万全の準備をした。

 熱気球は予約時間を記載した番号札を作成済み。

 看板等は昨年の物をそのまま使用。

 ただ展示・実演はかなり多くなった。

 午前10時から午後1時までが熱気球の試乗会。

 午後1時から模型飛行機の飛行。

 午後2時から午後3時半まで、6半時間10分毎にアニメーション上映。

 内容は2つの話を交互に繰り返し。

 あと自転車や便利グッズ等の展示は借りた教室で随時実施だ。

 自転車は試走させたりデモで学内を走ったりもする予定。


 教室はナカさんが何とか押さえてくれた。

 高等部の南端の教室が空いていたそうである。

 やはり入口に近い教室の方が人気らしい。

 俺たちは校庭での活動が多いからこの場所が有難いけれど。

 研究室からも結構近いし。


 自動紙芝居装置改造の映写装置も無事完成した。

 なお光源は記述魔法で作成した。

 日光を使うのは配光が大変だ。

 それに曇りや雨の日だと光量が落ちる。

 そんな訳でアキナ先輩が万能魔法杖の力を借りて光を生み出す事になった。

 だからアキナ先輩は基本的にアニメの部専任という事になる。

 その代わり熱気球の操作は俺とタカス君で担当。

 俺達なら鑑定魔法を使って気球内の温度を適切に管理できるからだ。

 案内ポスターも学校内のあちこちに貼りだしたし準備は万端。


 なお実は今回、俺はこの研究会以外にもちょっとだけ絡んでいる。

 ただそっちは監督や監視をしていないので状況は不明。

 俺の期待通りのものが出来ているだろうか。

 ちょっとだけ心配かつ楽しみでもある。


 さて初日は眩しいくらいの快晴で風も無い。

 開始と同時に熱気球受付に列が出来る。

 昨年の事を憶えてくれていた生徒も多いらしい。

 先生方や一般の大人も混じっていたりするのは愛嬌だ。

 あっという間に本日分の受付が終了。

 まずは俺とミド・リー、シンハ君が当番だ。

 他にナカさんシモンさんが教室の展示案内を担当している。


 熱気球は早速お客さん6名とミド・リーを乗せて浮上開始。

 気球の操作は俺にとってはもう慣れた作業だ。

 鑑定魔法で最適温度がわかるから割と簡単。

 風が吹いた時の事を考えて地上でシンハ君が待機している。

 何もなければロープを整理するだけの担当だけれども。

 最悪突風に吹かれたら移動魔法を起動するなんて事も可能だ。

 念のため気球に搭乗する担当は移動魔法の魔道具を身に着けることにしている。

 勿論使わないにこした事はない。

 使ったら言い訳が大変だから。


 6回目の熱気球体験から降りてきたところで次の当番と交代。

 こっちはコントロールがタカス君で補助がヨーコ先輩とフルエさんだ。

「今のうちに飯を食べておこうぜ。ミタキはこの後飛行機を飛ばすんだろ」

「そうね。折角の学園祭だから美味しいものを食べないと」

 シンハ君とミド・リーがどんどん先に進んでいく。

「何か目当てがあるのか」

「クスナやヒウナ達が模擬店やっているから取りあえず応援がてら買っていこうと思って」

 2人とも同じクラスの女子だ。

 ミド・リーは色々付き合いがいいからな。

「剣術研究会も有志で模擬店出しているからさ」

 これはシンハ君。

 つまり2人とも知り合いの模擬店に激励兼ねて買い物という訳か。

「ミタキは何処か義理がある場所は無いの」

「俺と仲いいのは大体こういうお祭り騒ぎは苦手だから。模擬店どころか学祭に来ていない可能性すらあるし」

 実は1件だけ心当たりがある。

 でもそれは研究会の皆さんには内緒。

 上手くできているか具合がわからないので後に一人で偵察に行く予定だ。


 そんな訳でまずはクラスの女子有志が出しているらしいサンドイッチの店へ。

「どーお? 今の売り上げは」

「サンドイッチはライバル多いしね、早くも苦戦中」

「だから売り上げに協力してくれると助かるな。今のお勧めはチキンミックスかな」

「じゃそれ3人分お願い」

「ありがと、まいどあり。でも3人で歩いているの何か久しぶりだよね」

「そうそう。シンハはヨーコお姉様とつきあっているんだよね」


 ひくっ。

 シンハ君が固まった。


「一緒にトレーニングとかしているだけだぞ」

 慌てて反撃するも微妙にいつもと口調が違う。

「でも放課後しょっちゅう一緒にいるじゃない。ヨーコお姉様も楽しそうだしさ。あれ見てるとシンハに文句言えなくなっちゃうんだよね。お姉様を見守る会ももう解散かなあって皆言っているし」

 そういえばヒウナさんはヨーコ先輩女子ファンクラブの面子だった。

 昨年真っ先に熱気球のところに来た一人でもある。


「だからトレーニングを一緒にしているだけでそれ以上じゃない」

「でも合宿でも結構一緒だよね」

 ミド・リーが裏切った。

 でも面白いからシンハを助けないで観察しておこう。

「あれは体力的にちょうど行動パターンがあうから、自然にそうなるだけで……」

「それでだんだん距離を縮めていったと」

「だからそんなんじゃないって」

「2年になったら成績も上がったしね」

「あれもヨーコ先輩につきっきりで教えて貰ったたんだよね」

 ミド・リーも加わりいじりまくる。


 一方シンハ君の方は本気で焦っている模様。

「だからそんなんじゃ……」

「シンハの家も立派になったしね。あそこの石鹸とかヘアトリートメント売れているしさ。確かに髪がつやつやになるんだよね」

「本当は認めたくないけれどさ。まあ他の男子よりは釣り合うし仕方無く認めるか。見守る会もそんな感じだよ。はい3人分毎度あり」

「それじゃそのお姉様によろしくね」

 ミド・リーがささっと払って会計終了。

「またね」

 ミド・リーは手を振りながら、シンハ君は逃げるように模擬店を後にする。

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