第171話 登山開始
本日は登山だ。
山の名前はオソラカン山といい、
でも登山コースは毎年シーズン前に整備されていて登りやすいそうだ。
装備はいわゆる登山と考えるとかなり簡単。
非常用の食料と飲み水用のコップ、それに雨を通さない長袖長ズボン上下を用意すればいいらしい。
この世界の住民は基本的に日常魔法が使える。
ライトと行動水と熱源は常に持っているようなものだ。
それにここに関してはハイキングコース並みに整備されているようだし。
俺達はそれに加えて少しだけ荷物を持ってきている。
山頂で料理を作って食べるためだ。
鍋や食器、料理の材料は小分けして布袋に入って各々が持っている。
入っている材料は下拵え済みですぐ調理にかかれる状態だそうだ。
でも何を用意しているのかは布袋で隠されていて不明。
「山頂でのお楽しみ。その方が面白い」
そんなフールイ先輩の意見があったから。
他に俺とアキナ先輩は万能魔法杖をディパックに入れている。
昨日夜先輩に一通りの魔法命令を書いた紙とともに使い方を説明して渡した。
もう身体強化を使っているのかどうかは不明。
ちなみに俺は歩き始めてすぐに身体強化魔法を使用した。
自分の体力の無さには絶大なる自信があるからだ。
登山道の入口には親切にも本日の天気予報が掲示してあった。
『本日は終日晴れ。山頂の天気は快晴。やや肌寒いので風雨を通さない長袖の服は必須です。なお山頂は2時の鐘までには出発しましょう。夜間は思わぬ危険に遭遇する事もあります』
なんて書いてある。
そこからは支尾根をジグザグに登っていく感じ。
天気がよくて風も気持ちいい。
気持ちよく歩いているとちょうど見晴らしが良くて広いところに出た。
「ここで最初の休憩にしましょう。喉が渇いた人はこれをどうぞ」
ナカさんがボトルを出してくる。
順繰りに回ってきて俺のところへ。
これ皆さんと間接キスだけれどいいのかな。
この世界というかこの国にそんな概念は無いけれど。
そんな事を思いながら飲んだボトルの中は甘くしたレモン水だった。
疲れがぐっと引いていくようだ。
身体強化魔法のおかげでまだ疲れていないけれど。
「美味しいな、これ」
「疲れた時にいいんだよな。剣術愛好会でもよく作って貰った」
「休憩10回分程用意してあります」
流石剣術研究会の元マネージャだな。
用意がいい。
「もう湖があんなに下ですね」
ユキ先輩の台詞で視線を下へ。
俺達がいた別荘地や湖、商店街が見える。
小さくて玩具みたいだ。
こんな景色何処かで見たなと思ったら。
「気球の時と同じだね」
シモンさんの台詞で気がついた。
そうだ、気球の時もこんな感じで下が小さく見えたな。
「そう言えば気球はまだ試していないのだ。空を飛ぶ感覚をやってみたいのだ」
そう言えばまだ新人3人は熱気球は試していないんだな。
でも今は季節が悪い。
「あれは涼しくて風の無い季節がやりやすいからさ。秋になってからかな」
「楽しみなのだ」
「そうですね」
ユキ先輩は頷いた後、もう一度口を開く。
「さて、ほどよく休んだらまた行きましょうか。筋肉が冷えたら歩くのが辛くなりますから」
そんな訳でまた歩き出す。
それにしても身体強化魔法のおかげですこぶる快調だ。
体力があるというのはこういう感じなのだろうか。
そんな事を思いながら俺は足を進める。
休憩4回目より先で森林限界を突破したらしい。
周りはゴツゴツした茶色い岩と砂利。
風がそこそこある。
所々に背の低い腰くらいの高さの木とかが生えている。
「結構疲れるね」
シモンさんの台詞に確かにと頷く。
俺はここまで既に身体強化魔法を3回使っている。
皆はよく身体強化を使わずに登れるな。
俺にはとても無理だ。
「今度のピークが山頂だろ、きっと」
本当だろうか。
何せここまで偽ピークが3回あった。
ここかと思って登ってみると先のもう少し高いのがある。
その繰り返しだ。
身体強化魔法を使っても疲れることは疲れる。
魔法が切れると普段より遙かに疲れた状態になる。
頼む、今度こそ本当に山頂であってくれ。
ジグザグで浮き石がある道を一歩一歩足を上にあげていく。
登って登って、登って……
何やら賑わいの気配が感じられた。
登り切るとそこは広い場所。
先に登った登山者がそこここで休憩している。
「お疲れ様。到着なのだ」
おお、やっと到着か。
見ると山頂と書いてあるらしい看板もある。
今度こそ本当に到着したようだ。
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