第170話 二度漬け禁止
「そんな訳で西部は結構漫画が盛んだ。今では西部だけでなく南部にも入って来ているけれど。中でも百合系は美麗な傑作が多い。愛の形としては一見……」
『今まで読んだ事は無いけれどつい面白くて読んでしまった』
そう正直に答えたのが裏目に出たようだ。
どうもタカス君は強烈なまでの漫画好きの模様。
中でもやはり百合系の漫画が好物らしい。
元々アストラム国の西部はそういった漫画文化が発達している。
アストラム国の漫画の歴史、更に百合系漫画の歴史と系統、主な作家と作風、更に百合漫画がどれほど美しい物かについて延々と聞かされてしまった。
おまけに初心者にお勧めという本も3冊借りてしまった。
ちらっと見たが中盤の絵が可愛い割にやっていることがエグくエロい。
こんなの人前で読めないだろう!
「そろそろ夕食の準備をしようかと思う。今日は俺がやるから先輩はのんびりしていてくれ」
タカス君がそう言ってキッチンに向かってやっと百合漫画学講義から解放された。
いやタカス君にこんな趣味があるとは思わなかった。
意外とディープな奴だった。
無口だが常識人で何でもそつなくこなす優等生だと思っていたのだが。
なおフルエさんはその辺を知っているらしい。
昨日口止めしたのはこの件だったようだ。
さて、取りあえず本を自室に隠してから魔法杖の確認だ。
一応鑑定魔法では最初の試作品と同程度の機能があると確認出来ている。
でも実際に試さないと俺自身が納得できない。
だから試作品2つとも持って外に出る。
◇◇◇
魔法杖の性能を確認して、怪しい本の読書をして。
賑やかになったから本を隠してリビングの方へ出てみる。
皆さん今日は色々買い込んだようだ。
本来は地元の食べ物を買う目的。
だったのだがおしゃれなバッグとか色々増えている。
「随分買ったんだな」
「アウトレットの店を回ったから割と安かったのだ。あと明日の登山に向けて背負えるバッグが欲しかったのだ」
革製の綺麗なバッグは登山には向かないよな。
そう思ったけれどそれを口にするのは野暮というものだ。
「それじゃ飯にするか。用意は出来ている」
皆でキッチンからリビングのテーブルへ色々運ぶ。
20
更に大きい金串に肉の塊を刺したものも出てきた。
大きい方は鉄串を刺した状態のまま回すことが出来る専用の台まである。
肉を切るためのものかナイフまでついている。
ソースは岩塩を入れて4種類。
岩塩とレモン塩と茶色いどろっとした物。
それと野菜を刻んでドレッシング風の液体で和えた物だ。
あとはサラダとちょっと黄色いスープ、そして主食はパン。
タカス君が食べ方を実演付きで説明してくれる。
「これはこの別荘地おすすめのパーティ料理だ。
まず串は2種類。粉がついていない方は魔法でそのまま焼いて食べる。味付けは岩塩かレモン塩か野菜入りの透明なソース。
粉がついている方は一度この油の壺にさっと全体を浸した後、強めに熱を通してやる。この外側がぱりっと黄金色になればOK。これもこのソースでもいいが、こっちの濃い色の甘いソースの方が一般的。
最後こっちの大きい肉串。これは熱魔法で好みの程度に焼いた後、ここのナイフで削ぎ切って食べる。これも岩塩か野菜入りの透明なソース。
基本的に大きい肉以外は中までしっかり熱を通す。大きい肉は食べる人の好みだ。表面だけかりっと焼いてもある程度中までじっくり熱を通してもいい」
アキナ先輩がちょっと首をかしげる。
「これは原型は南部、それもドバーシから奥に入った方の料理でしょうか。何処か見覚えがあるような気がします。あの辺は串に刺して焼いて食べる料理が多いですし」
「そうらしいのだ。でも皆で食べるにはちょうどいいという事で、ここの別荘地お勧めの料理にしたのだ。ただ魚を腐らせたソースは臭すぎて不採用になったのだ」
魚を腐らせたソースというのはアージナで食べた魚醤だろう。
確かにあれは一般的に好まれる匂いでは無いよなと俺は思う。
「あとこの料理にはルールがあるのだ。まず大きい串は一度取ったら次の次の人が取るまでは手を出さない。あとソースを着けるのはひとつの串につき一度だけで二度漬け禁止。それを守らないと戦いになるのだ」
二番目のルールは何処かで聞いたようなルールだな。
俺の気のせいだろうか。
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