第168話 楽しい開発品

 仕込みディパックに財布と鍵を入れて別荘を出る。

 さて、外で改めて身体強化魔法の効果を確認だ。

 まだ身体強化状態は続いているのでそのまま試してみる。

 まずジャンプ。

 今度は軽くではなく全力で。

 飛び上がった高さを目測する。

 大体2階建ての家の2階天井を触れるか位だな。

 シンハ君程ではないけれどなかなかいける。


 次はダッシュだ。

 最初は足が力に負けてもつれそうになる。

 足のフォームを意識して上手く蹴り出すようにする。

 鑑定魔法で速度計測!

 全力で時速25離50km/hというところか。

 これはフォーム改造でもう少し速くなりそうだ。

 幅跳びも軽く飛んで余裕の5腕10m突破。


 なんと凄い、これなら身体強化出来ないほとんどの人に勝てる。

 実は自分の運動性能にそれなりのコンプレックスがあったのだ。

 でも今はかなり爽快な気分。

 天気も夏晴れ。

 高原の空気が気持ちいい。

 そうか、スポーツの爽快感とはこういう感じなのか。

 俺には縁が無かったから初体験だ。

 思わずハハハハハと高笑いしたくなったところで見覚えある姿が見えた。

 皆さんが午前中のお買い物から帰ってきたようだ。


「どうしたのミタキ、外で」

「いやちょっとね」

「そう? 何か機嫌良さそうだけれど」

「ちょっと新作の調子を確認していたんだ」

 我ながら物事を隠しておけない性格だと思う。

「新作ってひょっとしてそのいつものディパックですか」

 タカス君が聞いてきた。

「そうだけれどタカス君にはあまり効果は無いと思う。何せ『誰でも記述魔法を利用して色々な魔法が使える魔法杖・携帯版』だから」


「それはどんな魔法でも使えるのでしょうか」

 おっ、アキナ先輩が興味津々という感じだ。

「この杖に記載した記述魔法に限定されますけれどね。でも大抵の魔法は網羅したつもりです。大体の魔法は『魔法の名前、対象、実行』で使える筈です」

「お借りしてみていいですか」

「どうぞ」

 いつになくアキナ先輩が乗り気だなと思いつつ俺はディパックを渡す。

「結構重いですわね」

「金属部品が多いですから」

 背負ってアキナ先輩はベルト等を調整して、そしておもむろに宣言する。


「なら試してみますわ。身体強化魔法、対象私、実行」

 そう言って小さく頷く。

「確かにザックが軽くなった気がします。もう少し試してみて宜しいでしょうか」

「どうぞ」

「ではちょっと試してみますわ」

 そう言って先輩はいきなり走り出す。

 なかなか強烈な速さだ。

 更にハイジャンプとか横ジャンプとか色々やっている模様。

「これはなかなか楽しいですわ」

 おいおいいつもの落ち着いたキャラクターは何処行った!

 そう突っ込みたいが気持ちはよくわかる。

 何せ俺も同じような事をさっきした訳だからな。

 逆に言うとアキナ先輩も自分の運動能力にコンプレックスがあったのだろうか。

 まあ楽しそうなのでそこは突っ込まないでおこう。

 皆さん微笑ましい物を見るような顔で見ているし。


 ◇◇◇


「そう言えば今日は商店街で食べてこなかったの?」

「美味しいけれど量が少なくて高いのです、ここの商店街」

 なるほど観光地値段という訳だな。

「それに甘い物はウージナの方が美味しいですね。種類も豊富ですし」

 安い甘味料はウージナから広まったからな。

 最近は麦芽糖を分解してブドウ糖にしたり更に加工し果糖にしたりしているし。

 その辺は俺では無くシンハの家に雇われた誰かが開発したようだけれど。

 それに姉貴が俺の思い出せる限りのデザート類をほぼ全部作って販売している。

 最近は更に新作を作っている状態だ。


「そんな訳で今日は甘い物をお願いしたいです。甘くないものは私が作りますから」

 そんな訳で俺とナカさんで昼食調理の開始。

「パンケーキとプリンを作りますからそれにあう物をお願いします」

「ならサラダとあの麺を作ります」

 この辺のメニューは何度も作っているので俺も慣れている。

 違うのは今回使うのがシンハ君宅の新製品、ブドウ糖水飴であるところだ。

 麦芽糖はカラメル化しないがブドウ糖はカラメル化する。

 なのでほろ苦い味をうまく作れるのだ。

 熱魔法で景気よく作っては焼き作っては焼きで11人×3枚ずつ完成。

 その頃にはプリンもほどよく固まっている。

 プリンにはカラメルかけて、パンケーキはあえてそのままで。

 ナカさんが作っているサラダも美味しそうだ。

 レタスとトマトとキュウリが野菜のメイン。

 それにゆで卵や蒸し鶏が食べやすくカットされて中に入っている。

 更にジャガイモと魚卵塩漬けを混ぜたものまで入っている豪華版だ。

 スパゲティ用のミートソースも美味しそう。

 スパゲティの麺は最後に一気に茹でる模様だ。


 そんなメニューで昼食を開始。

「うん、その辺の店には負けないよね実際」

「甘い物がつくのがポイント高いのだ」

「でもこのサラダも美味しいですわ。何でもありという感じです」

「春の時も思いましたけれど、ここの合宿の食事は豪華ですよね」

 豪華なのもあるけれど量も強烈だと思う。

 どう考えても1人あたり2.5人前は食べているし。

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