第144話 こっそり会談中

 皆さんはシンハ君も含めて2階浴場にいる模様。

 そんな中俺とタカス君は下で会談中だ。

 彼の口調も大分くだけてきた。

 今までの丁寧語は意識して使っていたようだ。

 話した内容は今日までのここの歴史とか資金だとか色々。

 学長がやはり他の世界の知識を持っている人物だとかそんな事まで。

 でも俺達2人が一番共感できた話題は魔法とか技術的なものではない。


「俺の以前いた世界はここほど開放的じゃないんだよな。水着着用でも目のやり場に困ってさ。そんな訳で今日はここでのんびりしている訳だ」

「理解できる。以前の俺の世界もそうだ。フルエも平気で俺の前で着替えたりする。そのたびに意識をどう他の処へ持っていこうか悩む」

「俺もそうなんだ。シンハなんかは気にしないようだけれどさ」

「せめて女子には気にして欲しい」

「全く同意見だ。でもここの文化は結構おおらかだしさ」

 そう、俺とタカス君はそんな処で意見が一致してしまったのだ。

 この辺はシンハ君には相談できなかったのでなかなかありがたい。

 でも此処の世界の常識と女子との人数差には勝てないのだけれど。


「タカス何やっているのだ! 上は気持ちいいのだ」

「今日はいい」

「ミタキも来たら。風もちょうどいい感じよ」

「ちょっと下でやりたい事があるからパスで」

 上の連中は俺達の気持ちがわかっていない。

 まあわからないままでいいけれど。

 下手なわかり方をして気味悪がられたりムッツリ扱いされるよりはましだ。


「それはそうと俺はここで何を研究すればいいんだ。確かに俺の魔法はこの世界では特殊だけれど、ほとんど俺しか使えない」

「実は他の人でも使える方法があるんじゃないかと思うけれどさ。それは後に置いておくとしてそんなに難しく考える必要は無い。実際は好き勝手に物を作って、時々旅行へ出かけて遊んでいるだけだしさ。作るのも魔法とか機械じゃなくてもいい。ここには無い料理とかそんなのでもさ」

 タカス君はちょっと真面目に考えすぎているようだ。

 でも特に難しく考える必要は無い。

 この研究会は実のところ単なる遊び仲間みたいなものだから。


「そうは言っても難しい。何せ色々な物の作り方を全部憶えている訳じゃない。それに生活の補助的なものはほぼ全部記述魔法で何とかなっていた」

 やっぱり考え方が堅いよな。

「思いついた時で充分さ。俺だってすぐに色々な機械類を思い出せた訳じゃない。それより楽しければいいんだ」

 ふとある事を思い出した。

 そう言えばタカス君に協力してもらいたい事があったな。

 言おうとしては邪魔されて説明できなかった事だ。


「ただもし今すぐ何か思いつかないなら、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」

「何だ?」

「こっちだ」

 俺は立ち上がって歩き、キッチン横の階段へ。

 こっちの階段は風呂では無くキッチンやシャワールーム、トイレの上スペースだ。

 倉庫状態で色々置いてある中、俺はある道具の入った収納箱を出す。

 ついこの前作成した後、危険過ぎて封印した電撃魔法用魔法杖だ。

 持ってみるとずしりと重い。

 俺の腕力だと持ち上げて運ぶのが……辛いと思ったところで。

「強力、対象ミタキ先輩、発動エクセキュート!」

 タカス君の声。

 おっ、無茶苦茶軽くなったぞ。


「便利だな。これが使えれば俺でもかなり色々出来そうだ」

「強力魔法は筋力の7倍まで。使いすぎると筋肉痛になる」

 おいおいかけた後に警告しないでくれ。

 でもまあ使いすぎなければいいんだよな、きっと。

「あとその辺の丸太を1本、短いのでいいから持って来てくれ」

「わかった」

 タカス君が自分にも魔法をかけ、1腕2mくらいの丸太を持つ。

 階段をおりていつもはシモンさんが練成に使う場所に収納箱を置く。


「丸太はここからちょっと離して、俺の作業スペースの1腕2m位手前に立てて置いてくれ」

 規格品の丸太は断面がきっちり樹に垂直に切られているのでゆっくり手放してやれば直立する。

 この辺は魔法加工ならではの精密さだ。

 タカス君が丸太を設置するのを見ながら俺は電撃用魔法アンテナを組み立てる。

 構造は他の魔法アンテナとほぼ同じだから問題無い。

 俺の腕力も魔法でパワーアップしているから組むのは簡単だ。


「この前誰でも風の攻撃魔法を撃てる魔法杖を見せただろ。実はこっちの方が先に出来ていたんだ。誰でも電撃魔法を撃てる杖。どう考えても戦争用に使われそうだという事でこうやって隠していたんだけれどさ。

 ところでタカス君は鑑定魔法を持っているよな。なら俺の持ち魔法を日常魔法を含めて一通り確認してみてくれ」

「特殊魔法で鑑定魔法、日常魔法で光、熱、水と見える」

「正解だ。つまり俺に電撃魔法の素質は全く無い。しかしだ」

 俺は杖を構える。

「ちょっと左に避けて、鑑定魔法で確認しながら見ていてくれ。やるぞ」

 魔法杖から電撃魔法が放たれ、派手な音で丸太に命中。

 丸太はゆっくり倒れ更に大きな音をたてた。

「見たとおり、杖の構造次第では全く素質がない魔法でも使うことが出来る。この方法論とタカス君の記述魔法を組み合わせる。そうすればどんな魔法でも使える魔法杖が作れる。そう思わないか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る