第128話 感じている変化
石鹸の実作は久しぶりにやった。
でも作業は無論設置した機械任せ。
だから昨年最初に作った時と比べて非常に楽だ。
ほぼ全ての機械の実動作確認を終えたら時間はもう午後4時過ぎ。
急いで蒸気ボートに乗り研究室へと帰る。
「私達の手作りの頃より整形や包装も立派になったよね」
お土産に貰った箱詰めのスキンケアセットを見ながらミド・リーは言う。
「いつも使っているし治療院でも販売しているだろ、一通り」
「でもこうやってちゃんと見た事無かったしね。自分で使う分は簡易包装だし」
「これは献上用に作っている最高級品のセットですわ」
アキナ先輩が教えてくれる。
「私達が作っていた頃と比べると色々と凝っています。包装用の紙も箱も市販品ではなく専用の物を業者に作らせているようですし」
「これを専門にして毎日やっているんだものな」
ヨーコ先輩が頷いた気配。
「生産数もかなり増えている。別館の作業場を毎日稼働させても間に合わなくなったから工場を新設したんだしな」
「前はフル稼働させていなかったですしね」
スキンケアセット生産の方も大分進化しているようだ。
蚊取り線香や石鹸をはじめてもうすぐ1年。
以前シンハ君が言ったように最初の金儲けという動機は既に達成したようだ。
勿論将来まで保証された訳ではないけれど。
でも今はこうやって何処かへ出かけたり何かを作ったり、何かを作ろうと考える事自体が楽しい。
かつては金儲けの為の手段だったのだが、今は目的だ。
俺の中には今でも前世の俺がいる。
奴がもっと色々な物を見たい、作りたい、そして色々な処に行きたい。
そう思っているのがわかる。
さて、今日はこれで終わりだけれど明日こそはまた研究を進めないとな。
また鏡作りもやらされるのだろうけれどさ。
◇◇◇
さて、新学期になってシンハ君が授業に真面目に取り組むようになっている。
今まではノートは落書き帳状態だった。
それが真面目にノートをとっていたりする。
苦手というか忌避していた算術さえもだ。
しかも見た限り予習復習やってきている模様。
わからない所は授業終了後先生に聞きに行く位だ。
「どうしたんだよシンハ、急に真面目になって」
そんな事を周りの連中に言われたりしている。
「いやさ、補習くらうよりはこの方がましだしさ」
奴は教室ではそんな事を言ってごまかしている。
でも俺は多分、奴がそうなった理由を知っている。
春休み中、奴が話してくれたのだ。
「俺は今まで勉強が出来る奴は最初から頭の構造が違うんだと思っていた。例えばミド・リーなんてそうだろ。ミタキやシモンさんだってそうだ。授業以外で勉強するなんて事はテスト前に範囲と内容を確認するだけだろ、基本的に」
「否定できないな」
確かに俺自身はそうだ。
テスト前の勉強だって、あれはシンハ君がテスト前詰め込みをやるのに付き合っているだけ。
基本的には授業以外でわざわざ勉強をする事は無い。
テストや入試の前でもだ。
あれは実力を測る物だからそのままの自分で充分だと思っている。
実際それで失敗した事も無い。
ミド・リーも家では学校の勉強を一切せず、医学書だの錬金術の本だのを読んでいる感じだ。
きっとシモンさんもタイプ的には同じだろう。
「でもそれがどうかしたのか」
「いやな、2年になって最初に実力テストがあっただろ。あれで補習くらったらたまらないから休み中に対策勉強をやってたんだ。どうせミタキやミド・リーあたりとやっても助けにならないから基本1人でさ。家だと遊んでしまうから研究室の小会議室使って」
そう言えば合宿以外の休み中も結局皆さん研究室に来ていたな。
俺は自分の研究と鏡作りの見張りで、シモンさんは趣味の工作で、ヨーコ先輩はシンハ君との訓練で、他の女性陣は鏡とかバッグとかグッズを作りに。
でもシンハ君はヨーコ先輩との訓練しかやっていないと思っていた。
まあ俺は俺で色々やっていてそこまで注意しなかったというのもあるけれど。
「トレーニングの後に会議室こもって勉強していたんだけどさ。やっぱり1人じゃわからない処が出るわけだ。かと言って1年の皆さんはミタキ含めて教えるのに適していないだろ。だから仕方なくヨーコ先輩に聞いてみたんだ。
そうしたら1年の誰よりもわかりやすく教えてくれたよ。間違いやすい場所とかわかりにくい場所なんかもきっちりと。そして翌日には自習の時に便利だろうって自分のノートと教科書を貸してくれた。メイン教科分全部さ」
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