第115話 体力担当の重要性

 シンハ君を連れてこなかった事を後悔した。

 何故かというと石炭の積載、これが思った以上に大変だったからだ。

 シンハ君がいればでっかい籠に石炭を満載してよいしょと石炭庫へ入れるだけ。

 でも常人の腕力では大量の石炭を持ち上げて投入なんて無理だ。

 たった2重12kgでも結構腕が疲れた。

 蒸気ボートの時は普通に10重60kg以上を購入して入れているのだが、あんなのシンハ君でなければひょいひょいとは持てない。

 でもまあ何とか積み込んで、そして資材市場の中を探検する。

 鉄とか銅等の普通の金属は研究室に揃っているからパス。

 石炭はもう買ったからいらない。

 宝石等は今のところ必要ないし高いからパス。


 そんな事を考えながら見ていると玉ガラスを売っている店があった。

 ガラスと言っても完全に透明ではなく緑がかった半透明な塊だ。

 草木と砂を焼きまくって作るもので不純物が多い。

 これが家などで使うガラスの材料になる。

 これを魔法を使って加工して窓ガラス等をつくるのだ。

 でもこれで作った窓ガラスは景色が見える程ではない。

 かなり緑色がかっているし、表面もでこぼこ。

 外の光をぼんやり家の中へと導くのがやっとのものだ。

 これが今のところこの国で使われているガラスの現状。

 でもこれを材料に、更に加工すれば……


 現代日本における一般的なガラスの材料は珪砂と炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムだっけな。

 それを思い出しながら鑑定魔法で玉ガラスを確認する。

 うん、炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムをもう少し加えて、より高温で溶かせば今より更に不純物を抜く事は可能だろう。

 よし、これで更に透明な材料を作り直して平らなガラスを作ろう。

 そうすれば自動車の風防や窓ガラスが作れる。

 いまのままだとあまり速度をあげると風で涙が出てくるのだ。

 結果瞬きしながらの運転になってしまう。

 そうと決めれば必要な物は……


「シモンさん、工作系魔法を使ってレンガを壺状に整形したりとか出来る」

「かなり力を使うけれど、あの杖があれば出来るよ」

 よしよしよしよし。

 なら耐熱レンガも購入しよう。

 炭酸ナトリウムは探せば重曹くらい……ここになければ食品市場で探すか。

 最近はウージナでも探せば売っている状態だし何とかなるだろう。

 炭酸カルシウムは石灰石でいいな。

 これは探せばこの市場にありそうだ。

 平らなガラスを作るため、錫もある程度買っておこう。

 そう考えて俺は気づく。

 材料がやたら重い物ばかりだという事に。

 今回は腕力担当のシンハ君もヨーコ先輩もいない。

 仕方ない。取りあえず実験用程度の量の購入にとどめておこう。


 ◇◇◇


「ただいま~」

 何とか別宅にたどり着く。

「おかえり。どうしたんだ皆疲れた顔をして」

 元気そうなヨーコ先輩とは逆に買い物組は疲れ切っている。

「この次の買い物には、ヨーコさんとシンハ君にも是非一緒に行っていただいてもよろしいでしょうか」

 疲れ切った顔のアキナ先輩。

「勿論だけれど、何かあったのか?」

「あったというか無いというか……」

 俺達は顔を見合わせる。


 重いのは石炭や俺が買った資材だけでは無かった。

 人一倍食べる8人の食料を買い込んだらそれだけでかなりの重さになる。

 ミド・リーやシモンさんは体格比では腕力はある方だがそこまで強力じゃない。

 俺も健康体にはなったがまだまだ腕力は男子平均よりかなり下。

 アキナ先輩は腕力という面にかけては戦力外だ。

 つまりこの4人だと重い物を運ぶにも限界がある訳で……


「それで買った物はこれか。運ぶぞ」

 シンハ君やってきて座席のところから大きな布袋をほいっと持ち上げる。

 俺やミド・リーが両手で抱えてやっと運べる重さの袋をひょいひょいと3つ抱え、何事も無かったかのように家に持って入っていった。

「いや、この面子で買い物に行ってよくわかったんです。ヨーコ先輩やシンハのありがたさというものをたっぷりと」

 うんうんと頷く他3名。

「何かわからないが、取りあえず荷物を運んで中で聞こう」

 シモンさんがふらふらしつつ抱えて運んだ野菜入り大袋と、肉類と氷を詰めてしっかり重くなった木製クーラーボックスをそれぞれ片手で持ち上げたヨーコ先輩が軽快な足取りで家の中へ。

 俺達はまたもや顔を見合わせて、そして残ったわずかな荷物を手に取る。

「久しぶりに人間として敗北感を感じましたわ」

「僕もだね」

「私も」

 俺は無言で頷いて同意を示し、そして4人全員で家へと入っていった。

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