第113話 ファンクラブ諸氏の気持ち
「そういえば自動車の改良ってどんな感じにするの?」
ミド・リーに訊かれる。
「屋根の上に荷物を載せられるようにするのが最大の改良だな。あとは座席の位置の変更と、水タンクの移設とか」
「まだ始めたばかりだけれどね。後ろの席からも前が見やすくなるよ」
木材が足りないので屋根部分の改良は後回し。
まず始めたのがタイヤを太くし、径を小さくする事。
若干最高速が落ちるかもしれないが道路条件を考えると問題無い。
そして今は水タンクの移設と座席位置の変更を実施中だ。
これらの改良で座席の高さは運転席で
ボンネットも前方視界を妨げない程度にボリュームを出し、水タンクを移設。
これを部分毎に進めているのが今の状態だ。
「なら多少お土産を買っても大丈夫ですね」
「あまり重い物は勘弁してくれよ」
「あの大型魔法杖を置く場所が出来ただけでもいいですわ。座席の下とか横とかに無理矢理置いていましたし」
確かに魔法アンテナは折りたたんでもそこそこ大きい。
あれを屋根上に積めるだけでも大分ましになるかな。
「明日流木とかを集めて材料にする予定なんだ。手頃なのがあったら車の横に置いてくれると嬉しいな」
「なら明日、朝の訓練の時に探しておいてやるよ」
そういえば今朝もシンハ君とヨーコ先輩が早起きして出かけていたようだ。
早速合同訓練をしている訳か。
「頼むね。一度分解して再構成するからしっかりしていれば形は問わないから」
シモンさんの台詞にヨーコ先輩まで頷いた。
「任せておけ、シンハと頃合いのを探してきてやる」
こんなのファンクラブに見られたら抹殺処分だよなきっと。
既にシンハ君は除名処分を受けているけれど。
「それにしてもミタキ、今日は結構食べているよね」
ミド・リーに言われて気づく。
「そういえばそうかな」
「いつもは全部2口ずつとパン1切れ程度じゃない」
確かに今はパンも3切れめかな。
ウニタラモが背徳的に美味しかっただけではない。
牡蠣やあさりや松葉貝が入ったグラタンも凶悪なまでのおいしさ。
だからついつい食が進んでしまったのだ。
「やっぱり人に作って貰った料理はいいよな。自分が作ったのと違って」
俺ならウニをタラモ風にしたり、牡蠣をグラタンに投入したりは出来なかった。
何か勿体ないような気がして。
「なら私も作ろうかな」
「全力で断る」
「なんでー!」
それ以上言わないのが優しさだ。
「あ、そろそろ夕陽が沈むよ」
シモンさんが話題を変えてくれた。
外の方を見てみる。
確かに夕陽が沈もうとしていた。
「やっぱり綺麗ですね、これ」
◇◇◇
基本的に俺は腹一杯になると眠くなる体質だ。
そうすると必ず翌日とんでもない時間に目が覚める。
ただ今朝は何とか朝と呼ばれる時間のようだ。
鳥がさえずる声が聞こえているし空が明るくなりつつある。
そして鳥以外の声も聞こえてくる……
「よし、今日は負けない」
「その辺は女子と男子の体力差があるからな。ある程度はしょうがないと思うぞ」
ヨーコ先輩とシンハ君の声だ。
こんな時間からトレーニングをやっているのか。
その後はしばらくサッと地を蹴る音と息づかいだけが聞こえる。
反復横跳びにしては音が不規則だ。
何をやっているのだろう。
つい耳をすませてしまう。
しばらくして足音がとまり荒い呼吸音だけになった。
「やはりシンハの方がまだ強いな」
「この訓練は剣技を使えないからさ、ヨーコ先輩が不利なだけだろ」
「いや、これで負けるなら剣技なんてただのごまかしだ。でも楽しいな」
ん?
「何故?」
シンハ君も今の台詞に戸惑っている模様。
「こうやって同年代と本気で訓練していると、何か青春って感じがする」
何だそりゃ。
そう思いかけて俺は気付いた。
そういえば以前ヨーコ先輩が言っていたな。
昔から特別扱いされてばっかりだって。
話し掛けてくれるのはナカさん位で、模擬戦を受けてくれるのはシンハ位だって。
なるほど、確かに青春しているんだなきっと。
これで俺への被害は無くなるだろう。
アキナ先輩も卒業したことだしさ。
でもそれはそれで何かちょっと言葉に出来ない気持ちもあるわけで。
とりあえずシンハ君を除名にしたファンクラブ諸氏の気持ちに、ちょっとだけ同調したくなる。
そんな朝だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます