第55話 洋菓子に合うもの
結局気球用以外にドレス用として更に布は
なお洋服用の布地は間に樹液成分を入れず、代わりに繊維方向を120度ずつずらした布の三層構造だ。
軽さとしなやかさは同じだが通気性が全然違う。
大貴族の娘2名は布を受け取った後、いそいそ自宅へ帰っていった。
何でも年末の舞踏会に間に合うよう、これから縫製をお願いするそうだ。
大先輩2名がいないしシモンさんは魔力切れで休憩中。
そんな訳で本日はもう開店休業状態。
だからのんびりとお茶をしていたりする。
今日のデザートは蒸しパンだ。
手軽にほぼ失敗無く出来る。
適当にドライフルーツを入れればそれなりに美味しいし。
「最近甘い食べ物が少しずつ増えてきたけれど、やっぱりミタキが作るのは美味しいですよね」
「そうそう。何か物としてこなれている感じだよね」
前世の知識を使っているのでこなれたレシピなのは当然だ。
まあ言わないけれどさ。
さて、俺は時々、おやつの時間に何か違和感を感じる事がある。
理由はわからない。
違和感を感じない事もあるから、砂糖代わりに水飴を使う事だけが原因ではない。
例えば昨日は感じなかったけれど、今日は感じている。
何が原因だろう。
今日はこの後何も作るつもりはないので考えてみる。
昨日のおやつは餡子と白玉団子だった。
今日は蒸しパン。
その前はプリンでやっぱり違和感を感じたな。
更に遡って考えてみる。
あんみつ、どら焼きだと違和感は感じなかった。
蒸しパン、プリン、スコーン、カップケーキだと違和感を感じた。
共通点は……和菓子と洋菓子の違いかな。
この世界にはそんな分類は無いけれどなと思って、そして気づく。
そうだ! お茶だ!
ここには緑茶しか無い。
だから紅茶が似合うおやつだと違和感があったんだ。
そう思うと紅茶が欲しくて仕方なくなった。
でも俺の知っている限り紅茶を売っている場所は無い。
なら作るか、頼んで作って貰うかだ。
幸い紅茶の作り方は記憶の中にある。
まずは新鮮な茶葉が手に入るか聞いてみよう。
「シンハ? お前の処の領地で茶を栽培しているところはあるか」
「あるぞ、一応」
お、聞いてみるものだな。
「新鮮な茶の葉って手に入らないか」
「遠いから運んでいる間に悪くなるぞ」
なるほど、もっともだ。
「なら特殊な仕上げをしたお茶をお願いしたいんだけれど頼めるか」
「値段次第では大丈夫だと思うぞ。でもこの季節の茶葉は安物だから期待に添う出来になるかはわからないけれどさ」
いい感触だ。
「ならこれから仕上げ方を書くから頼めるか。量は注文できる最低の量、
「何々、新しいお茶も開発するの?」
「昔聞いたレシピだけどな。うまくいくかはわからないけれど」
葉っぱの質やここの気候がどういう感じの紅茶になるかはわからない。
だから工程とか時間は全て中庸で書いておこう。
具体的に言うと
① 最初の乾燥時間は1日半で、日陰で風通しのいい場所で行う。
② 全ての葉っぱがしっかりよじれるくらいまで揉む。
③ 発酵時間は半日程度。
④ 発酵止めは水が蒸発するよりちょっと上の温度で、なおかつ茶葉が
焦げないように6
⑤ しっかり乾燥させる。
⑥ 最後に火にかけた鍋内の水に小泡が出来る位の温度で5時間置く。
こんなものかな。
勿論説明はもっと細かく、図をいれたりしてわかりやすくしておく。
うまくいけば特産物になるかもしれないし、ここは丁寧にいこう。
「この方法、部外秘か何かにしておいたほうがいいか?」
「その辺はそっちに任せる。俺はこれで儲ける気は無いからさ。うまく出来れば香りがいい茶色いお茶が出来る筈だ。それが欲しいだけだ」
「水飴や石鹸工場の件もあるからさ。親父にも安価に作らせるよう頼んでおくよ」
「安くなくていいからその工程を丁寧にやって欲しいんだ。特に最初の乾燥のところが重要だからさ。その辺頼む」
「わかった」
安くなくていいなんて台詞、俺も言えるようになったんだな。
まあ貯金が恐ろしい勢いで貯まっているし、今回くらいはこれでいいか。
「どんなお茶になるの?」
「香りがまず全然違うんだ。甘い香りというか何というか。色は綺麗な茶色になる筈。なによりこういった甘いお菓子とかパンに合うお茶だ」
「想像できない。でも楽しみ」
「本当楽しみだよね。新しいものが出来るのって」
俺も楽しみだ。
どんな紅茶が出来てくるかな。
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