第54話 やっぱりチートな工作系魔法使い
「空へ行ける乗り物ですか。そうですわ!」
アキナ先輩が何か思いついたらしい。
「何ですか」
「この乗り物、学園祭に出してみてはいかがかしら」
学園祭か。
10月中旬に初等部から研究院までウージナ王立学校全体で行うお祭りだ。
研究発表なんてお固いものから演劇、合唱、模擬店に至るまで何でもあり。
それが1週間つまり6日間ぶっ通しで行われる。
俺は基本的にこういった行事は苦手なのでせいぜい見て回るくらい。
シンハ君は剣闘大会にだけは毎回出ている。
実は昨年初等部の大会で惜しくも準優勝に終わった強者だ。
まあ中等部1年にして中等部大会を制してしまったヨーコ先輩みたいなチートもいるのだけれども。
ミド・リーは何やかんや世話好きだから毎回あちこちに顔を出しているようだ。
模擬店のお裾分けを貰った覚えもある。
「でも出していいんですかこんなもの」
「一応お父様に確認は取りますけれど、おそらく問題ないと思いますわ」
「いいな。中等部展示の目玉になるぞ。空を飛べる機械や魔法は今まで無いしな」
ヨーコ先輩も乗り気だ。
「でも天候が良くて、なおかつ風が無い日でないと飛べませんよ」
「展示許可を取って、飛行可能な状態になったら持ち出せばいいじゃない」
ミド・リーもやる気だ。
「お祭りを空から見るの、楽しそうですね」
「同意」
「楽しそうだよな」
ナカさんとフールイ先輩、シンハ君まで。
「それなら色とかも目立つようにしようかな。あとは多少手荒に使っても大丈夫なように袋部分に耐摩耗性能つけて。あとはできるだけ早く作って試運転を……」
シモンさん、早くも文化祭用にどう対処するか考え出した模様。
本当にいいのか皆それで。
俺は目立つのが嫌いなんだ。
あ、個人的本音が出てしまった。
「とりあえずアキナ先輩のお父さんに了解取って、試運転をして、それからですね」
仕方が無いので俺は条件を出す。
「そうですね。それではシモンさん、お父様に説明するのでわかりやすい図面を描いていただけますでしょうか」
「了解。材料資材のお願いも一緒につけるね」
ああ、俺は目立つことが嫌いなのに。
最近ただでさえアキナ先輩やヨーコ先輩のおかげで色々目立っているのに。
でもこうなったら仕方ない。
むしろ皆の協力で順調に熱気球が出来る事を喜ぶべきだろう。
今思い出したけれど空を飛ぶ事は昔の俺の夢だった。
病室の窓から見える空は外の世界と自由の象徴だったから。
まさか異世界でその夢を叶えることになるとは思わなかったけれど。
◇◇◇
制作と学園祭実演展示にOKが出て、資材も集まった。
なお資材はプラムの木が長さ
あと太めの竹が長さ
これをどんな風に加工するのだろう。
俺を含め皆さん興味津々という感じでシモンさんの方を見ている。
例外はシンハ君で、これら資材をほぼ1人で搬入口から運んだので疲れて休憩中。
「どうやって作るんだ? まさかこの材料から気球をいきなり作るんじゃ……」
「流石に僕でも今回は一回で全部整形するのは無理だよ。まずはこの資材を加工した状態にして、その後形にする感じかな。ただ魔力を使うから今日は袋部分の布を作るまでだよ」
木を布にするのか。
俺の魔法の常識ではちょっと理解に苦しむ。
でもシモンさんの口調からすると可能らしい。
「じゃちょっと離れていて。始めるよ」
シモンさんが例のアンテナを構える。
杖の先方向から一見生成り風の色の布が出現した。
動きからしてかなり薄くて軽そうだ。
見るとプラムの木が確実に減っていっている。
いったい何をどうすれば木があんな布になるんだ。
紙のように繊維状態にして薄く重ねているのだろうか。
布の生成が止まる。
「ふう疲れた。今の僕の魔力じゃ今日はここまでかな」
「布を見てみていいか」
「勿論だよ」
俺だけではなく倒れているシンハ君を除く全員が生成された布を確認する。
軽くてやや光沢がある。
明らかにこの世界には無い薄さと軽さだ。
しかも薄いのに透けていない。
空気の通りも悪いようだ。
「これはどんな布なんですか」
「木の繊維をバラバラにして、縦方向と横方向にきっちり揃えて薄く均等にしたんだよ。正確には三層構造になっていて、木の繊維で出来たごく薄い布で樹液成分を挟んでいる感じかな。紙と違って繊維の方向を完全にそろえているから、この薄さでもかなり強い筈だよ」
どれどれ。
引っ張ってみても確かに破れる気配は無い。
「こんな布を木からそのまま作れるんだ」
「以前に麦藁で似たようなことをしている人がいてね。だからこの杖を使えばもっと正確かつ精密に出来るんじゃ無いかと思ってさ。でも流石に疲れるねこれは」
いや完全にこれはチートだろう。
「この布だけでも価値ありますわ。これでドレスを作ったらふんわりしなやかなものが作れそうです」
「確かにそうだな。色次第だがかなり需要はありそうだ」
「元の色的に白系統と青系統は無理かな。でも他の色には出来ると思うよ。気球も赤とオレンジにするつもりだしね」
「いいな。薄いオレンジで是非作ってみたい」
「私は黒がいいですわ」
何か気球以外にも副産物が増えそうな感じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます