第42話 本日の散財

 食事をした後、アキナ先輩が、

「ミタキ君の好きそうな場所にご案内いたしますわ」

という事でついていく。

 案内して頂けると大変ありがたい。

 俺はこの街を良く知らないからな。

 博物館の先を海沿いに歩いて路地に入る。

 路地の奥に巨大な食品市場が広がっていた。

 穀物だの豆だの場所によっては豚の頭だの何でもかんでもあるという感じだ。


「何か凄いですね、ここ」

「この国で手に入るほとんどの食品材料は手に入りますわ」

 ウージナの市場も充実していると思ったのだがその比では無い。

「しかしよくこんな処を知っていますね」

 少なくとも貴族のご令嬢が歩き回るような雰囲気の場所ではない。

 俺は商家の息子だからこういった場所は慣れているけれど。


「ここはここで観光名所みたいなものなのです。珍しい物が色々ありますからね。見るだけでも楽しめると評判なのですわ」

 なるほど。

 ならひょっとしたら、日本でのなじみの食材があるかもしれない。

 なお残り時間はあと2時間無い。

 急ぎ足で探索を開始する。


 おっ、早速面白い物を発見。

 これは粒が小さいけれど小豆だな。

 値段は半重3kg小銀貨1枚1000円と高くない。

 思わず半重3kgほど購入。

「これは何ですの」

「豆です。甘く煮ると美味しいですよ」

 ひ弱な俺に半重3kgの荷物はしっかり重い。

 でも時間は無いしシンハ君を召喚できる状況にもない。

 仕方なく背負い袋に入れて次の獲物を探す。


 お、今度は米、コメだ!

 しかも短粒種。

 鑑定魔法によるともち米だそうだ。

 迷わず半重3kgほど購入。

 あ、重い。

 この市場では豆とか穀類とかの最低単位が半重3kgなんだよな。

 そんな訳で背負い袋の中は既に1重6kg

 俺が普通に持って歩ける限界に近い。


 でもそういう時に限って見つけてしまうのだ。

 炭酸水素ナトリウム、つまり重曹なんて売っているのを。

 説明によればこれは東の砂漠地帯で産出されるらしい。

 石灰石を焼いたものと反応させて苦みを消してあると書いてある。

 鑑定魔法で見てみると確かに炭酸水素ナトリウムの純度が高い。

 天然もの、例えばトロナ鉱石だと炭酸ナトリウムが混じって苦みが出るのだが、その辺を石灰石由来の二酸化炭素で処理してあるようだ。

 用途は野菜等のあく抜き、魚介の下ごしらえ用となっている。


 これは欲しいぞ。ベーキングパウダーとしても試料としても。

 ほんの少し悩んだが結局購入してしまった。

 単位はやっぱり半重3kgが最低量。

 ああ、背負い袋が重い、重い、オモイ。

 肩が後ろに引っ張られる。

 自分の軟弱さが恨めしい……


「大丈夫でしょうか」

 アキナ先輩にまで心配されてしまった。

 実はあまり大丈夫ではない。

 でもこの宝の山を諦めるわけにはいかないのだ。

 そんな訳で気合を入れて歩き出すがやっぱり重い。

 これは……駄目かも。

 そう思った時だ。


「あ、アキナ先輩とミタキだ。やっほー」

 聞き覚えがある声。

 何とか顔を上げて声の方を見ると、やっぱりミド・リーだ。

 しかもミド・リー以外の女性陣だけでなく、シンハ君まで揃っている。

 おおありがたや助け船が来たぞ!


「シンハ、悪い、すまない、ごめん。頼むからこれ持ってくれ」

 奴は俺との付き合いが長いから、すぐにどういう事態か察してくれた。

「仕方ないな。ただし謝礼として今度何か旨い物をよこせ」

「ああ。ここの材料で明日の放課後にでも作ってやるよ」


「それは聞き逃せない発言だな」

 あ、ヨーコ先輩がにやりとした。

「ここは我々の明日のおやつの為に、皆でミタキ君を手伝おうではないか」

「賛成だね」

 そう言ってシモンさんが俺のバッグを取り上げる。

 細身で小柄な癖に腕力が凄い。

「それであと何を買い足せばいいのかな」

 おいちょっと待った。


「この赤紫色の小さな豆、買い足すといいことがあるかな」

「全部買い足しておきましょう。ミタキ君はシンハ君を連れて買い物を続行してもらうことにして」

 俺の意志を無視して話が進んでいく。

 仕方ない。俺は現在手持ちの小遣いを使いまくることを決意した。

 こうなったら思う存分回って買って買って買いまくるぞ。

 これはヤケなのかハイなのかハイなのか。

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