第31話 そして僕らは途方に暮れる

 今の環境だと新たな素材の発見は難しい。

 ならば次に作るのは機械類という事になるのだろうか。

 でも機械類の製造なんて俺達には手が出ない。

 俺が出来るのは企画と概念設計だけ。

 メインの製作はシモンさんに任せるしかない。

 だから機械類を作るとすれば使う事で俺達が楽しめるものでないと。


 最初に思い浮かぶのは飛行機だ。

 でもエンジン部分が作れそうにないし翼とかの設計も無理だからパス。

 自動車やバイクはタイヤ部分がネックだ。

 タイヤに使えるゴムのような材料はこの辺には無い。

 コルクを使ったらあっという間に崩れそうだし。

 馬車みたいに木の車輪だと振動でエンジンを壊しそうだしさ。


 そうすると船……船、か。

 そうだ、蒸気動力の船なら何とかなりそうだ。

 動力は蒸気タービンでいいだろう。


 外洋に出るような船は大きすぎて買えないし作れない。

 でも沿岸や河川、運河用の小型船なら中古で案外安く買える。

 スキンケアグッズの売り上げが順調に伸びれば視野に入らないこともない値段だ。

 普通の川船だと上流へ遡行する時に馬に引かせたり魔法を使ったりする。

 でも動力を積めば自由に行き来出来る訳だ。

 馬車ほど強烈な揺れも無いから俺が乗ってもきっと大丈夫。


「こういうのはどうだ。そこの蒸気機関を使ってさ。漕がなくても進む船を作るなんてのは」

「おっ、何だそれ」

「こんな感じでさ」

 アイデア帳にしているスケッチブックを出し、思いついた動力船を図に描く。

 この人数が全員乗るには全長3腕6m、幅12mは必要かな。

 軸の防水処理が大変だから動力伝達部は船外機のような形に。

 そして船の最後方に蒸気機関を載せてやる。

 確か河船の規格にそれくらいのがある筈だから、中古を改造すれば安く済む。


 後方部分半腕1mに蒸気機関とタービン、発電機を縦型にして詰め込む。

 その前は機関士席で、蒸気機関に燃料を入れる役。

 操縦はワイヤで前で出来るようにすればいい。

 操縦系統は2系統。

 スクリュー出力上下と舵の左右。

 あとは横付けとかする時用に人力用の櫂も入れておこう。

 帆はいらないから帆柱ごと外してと。

「こんな感じかな。これで運河や河川を自由に動けるぞ」


「面白そうですね」

 背後から予期していなかった声で返事がきた。

 えっ、えっ。

 気がつくと敵、いや女子の皆さんに囲まれていた。

 いつの間に。

「面白そうな事をしていたので確認させてもらったのですわ」

 アキナ先輩が俺の心を読んだかのように返事をする。

 この人は読心の魔法を持っていないはずなのだが。


「それでシモンさん、材料が揃った場合、この船は実際に造れますかしら」

「船本体さえ中古でいいから調達して貰えばね。あとはこの部屋で動いているアレとほぼ同じ造りだから難しくはないかな。材料が全部揃えば3日程度で作れるよ」

 確かにシモンさんの魔法があればそれくらいで作ってしまうだろう。

 魔法で金属を延ばしたり曲げたりくっつけたり自由にできるからさ。

 でもしかしだ。


「材料なんてそう揃わないでしょう。使う鉄とか銅とか相当な量ですし、中古船なんてそんなに安い額でちょうどいいのがあるとは思えないです」

 そう、中古と言っても船は結構いいお値段する。

 長さ2腕半5mの最小サイズの20年ものでも動けば正金貨1枚50万円位だ。

 つまり俺たちは半ば夢のつもりで話していたのだ。

 でもアキナ先輩はにやりと意味ありげに笑う。

「もし明後日までに材料が揃えば、夏休み中に出来ますね」

「うん、多分……」


「わかりましたわ。参考までにこの図を貰っていきますね」

 アキナ先輩は有無を言わさず俺のスケッチブックを手に取ると、こっちを向いて頭を下げた。

「急用が出来ましたので失礼いたします。それではごきげんよう」

 あまりに突然の動きに俺たちは半ば唖然とした感じで見送る。


 扉が閉まった後、ミド・リーが若干弱い調子の声でつぶやいた。

「まさかと思うけれど、船を用意するってんじゃないよね、きっと」

「まさか、だよなあ」

 俺たちは顔を見合わせる。


「ヨーコ先輩、何か貴族的に簡単に中古船を手に入れる方法ってありますか」

 ナカさんの質問に先輩は首を横にふる。

「私には思いつかない。アキナ先輩、何を考えているんだろう」

「でもあれは確信ある目。きっと用意する」

 これはアキナ先輩と付き合いの長いフールイ先輩の意見。

 急な展開に俺たちはただ途方に暮れるだけだった。

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