第4章 太平の眠りを覚ますか蒸気船
第30話 儲かるようにはなったけれど
発電機を作るのに最大の障害となったのは磁石だった。
ちょうどいい永久磁石なんて残念ながらこの世界には無い。
なので
① まずは電池の電力を使って電磁石にして発電機を動かし
② 発電した電力の一部を電磁石に使って更に出力を上げて
③ 最大の電力をコイルに流し、中に鉄芯を入れて熱して冷ます
なんて面倒な事をして、実用になる永久磁石を作った。
蒸気機関の方はそれよりは簡単に出来た。
ピストン式ではなく蒸気タービンで動くタイプだ。
ピストンリングに使う金属を思いつかなかったからである。
なおシモンさんはイメージ可能なものならほぼ何でも製作可能らしい。
だから蒸気機関もほぼ鉄と銅製ながら羽根車3段式、復水器付き、回転軸受部分はボールベアリング使用という非常に凝った作りになっている。
またクエン酸も作成に成功した。
これはパンに生える黒麹黴を使って発酵させる方法を使用。
これでレモン汁を使わなくても大丈夫になったわけだ。
だから今ではどんな香りでも材料さえあれば付加可能。
尿素を作るところだけは魔法頼みだけれども、これもまもなく魔法なしで作れるようになる予定。
蒸気機関を利用して高温高圧を作る装置をシモンさんと開発中だから。
おかげでスキンケアグッズの生産量は4倍以上に増えた。
相変わらず作れば売れる状態だから、俺達の懐もウハウハだ。
何せ週に1人あたり
俺とシンハ君の貧乏性は治らないけれど。
夏休みは残り10日程度。
シャーと軽快な音を立てて動いている蒸気機関を背後に女性陣の皆さんは集めた花やハーブを精油にしつつ、『自分専用の香り』のスキンケアグッズを製作中だ。
「この月桂樹のちょっと薬品臭い香りも少量だと悪くないですね」
「僕はやっぱり柑橘系が爽やかで好きかな」
「このローズマリーの香り、好き」
「戦闘訓練の汗の匂いを消すには強めのほうがいいかな」
「バラの甘い香りもいいですね」
「色々混ぜてオリジナルのいい香りを作るわよ」
とまあこんな感じである。
なおヨーコ先輩が風魔法で常時換気してくれているので、夏なのに蒸気機関運用中でもそれほど暑くないし精油の匂いもこもらない。
工程のかなりの部分を機械化したので皆さん余裕が出来た。
生産する商品の数も増えた。
そこで色々付加価値をつけるべく香りのいい花やハーブ色々を取り寄せた。
その結果『自分専用の香り』探しが始まってしまったのである。
なお出来た香りの中で優秀だと皆が認めたものはアキナ先輩の家かヨーコ先輩の家経由で王家に献上されるらしい。
大丈夫か?
女性陣のそんな祭り状態の中で、俺とシンハ君は瓶詰め作業や石鹸切り作業、梱包作業を黙々とやっている。
何せ自分用スキンケアとか興味無いしな。
特製レモンサイダーを飲んで一服しながらだ。
なおこのレモンサイダーは俺が姉に作り方を教えて家の店で売っているもの。
姉は熱魔法を自在に使えるから物を燃やして二酸化炭素を発生させ、ドライアイス化させるなんて事はお手の物。
市場に出回り始めた水飴とレモン汁を使ってかなり美味しいレモンサイダーを作って販売している。
結構味も良くて事実かなり売れているらしい。
悔しいことに俺がシンハ家別宅で作ったやつよりも旨かったりする。
なおトマトケチャップも売れ行きは好調らしい。
名前は『レッドスイートソース』になったけれど。
「そろそろ俺達が楽しめるような物も生産したいよな」
「確かに」
俺やシンハ君にとってスキンケアグッズは儲けのための手段にすぎない。
女性陣は色々楽しんでいるけれどさ。
しかもかなり自動化したから残っている仕事も単純作業だけ。
色々面白くないのだ。
「水飴は確かに儲かっているらしい。親父が言っていたな。それにこうやって美味しい飲み物や食べ物も増えた。
でもさ、何か俺達にとって面白い物は出来ないか?」
「わかるけれどさ。そんなに簡単には思いつかないな」
「贅沢を言っているのはわかっているんだ。ちょっと前までは儲かるだけで充分楽しかったしな」
うんうんと2人で頷きあう。
しかし面白いものか。
「どんな物を作ったら面白いだろうな」
「食べ物はやった。スキンケアは女性用。他に何か出来るかな……」
今この部屋にある物品を元に考えてみるか。
男性用スキンケアグッズなんてものはいらないので却下。
塩酸はパイプ詰まり清掃用として少しずつ売れているから却下。
あとは水酸化ナトリウム、硫酸、クエン酸、グリセリン……
クエン酸でスポーツドリンクはやめておこう。
この辺はレモン等柑橘が豊富だから、わざわざクエン酸を使ってまでドリンクを作る必要は無い。
それにレモンサイダーの件で姉貴の方がああいうのは得意だとわかったしさ。
あとはグリセリンでニトログリセリン……
これはやっぱりやめておこう。
絶対事故を起こしそうだから。
確かに火薬とか、それを使って小火器を作るなんてのは楽しそうだけれどさ。
そういう使用すると殺伐となるものは出来れば避けたい。
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