第3話 学校における活動風景

 俺の通うウージナ王立学校中等部の授業は午後2時頃まで。

 後の午後4時過ぎまでは課外活動という名で生徒が自由に活動する時間である。

 例えばシンハは剣術研究会に入っていて放課後はチャンチャンバラバラと練習。

 体力が余っているようで全くもってご苦労な事だ。

 俺が同じ事をしたら10半時6分以内に倒れる自信がある。


 さて俺は当初、課外活動関係は何処にも所属していなかった。

 でも過去の記憶を得てから方針を変更。

 とにかく記憶にある色々なものを再現出来る材料が欲しい。

 そんな材料やその情報を持っているのはどこの研究会だろうか。

 そう思って叩いたのが錬金術研究会の扉だ。


 なお似たようなものに黒魔術愛好会というのもあった。

 でもあっちは胡散臭さ満載すぎてちょっと遠慮させてもらった。

 何せ見学に行った時、血まみれな鶏を手に怪しい儀式をしていたからな。

 ちょっとアレは勘弁だ。

 服が血で汚れると洗うのが大変だし。


 そんな訳で今日も錬金術研究会の活動場所となっている摂理実験準備室に入る。

「ちわーっす」

「こんにちは」

 そうきちんと挨拶を返してくれたのは、中等部3年でここの会長をしているアキナ・ガーツカ先輩。

 長い黒髪に涼しそうな瞳のお姉様で実際辺境伯家の御令嬢だったりする。

 だが見た目と雰囲気に騙されてはいけない。

 彼女は残念なことに変質者やばいひとだ。

「やっぱりホムンクルスを作る材料に精液は必要ですわね。ミタキ君もそう思いませんでしょうか?」

 ほら来たぞ変態やばい発言。


「俺はホムンクルスなんてモノは製作不能だと思っていますけれどね」

「古の錬金術師サンダン・キョーは四元素で出来ない物は無いと言っていましたわ」

「なら四元素以外に精液を使うのは邪道なんじゃ無いですか」

「やっぱり生命の素があった方が成功率が高くなるんじゃないかと思いますの」


「生成環境と呪文等の外部要因の研究がまだ必要。ホムンクルスなんて使い処不明。故に私が探求するのは賢者の石」

 これは2年のフールイ・チバーシ先輩だ。

 女子としてはやや短めの黒髪はボサボサ気味で何故か前髪が長く、前から視線が見えない。

 小柄で細身だが胸が大きくスタイルはいい。

 でも髪型が全てを台無しにしている。

 残念先輩その2という奴だ。


「まずは色々と採取して調べて、有用な物質を探すのが確実なんじゃないですかね」

 これは俺の意見。

 まあつまりは資材集めをしたいなという俺の希望そのままだ。


「甘いわミタキ、錬金術はロマンよ! 目指せ一攫千金! 作るならエリクサーよ。あれならいくら高価でもバンバン売れるわ。夢をみないでどうするの!」


 小柄でやや茶色い髪をツインテールにしている少女、こいつは俺のクラスメイトで旧知の仲でもあるミド・リー・イー。

 こいつはうちの家の近くにある治療院の長女だ。

 両親からの遺伝で治療魔法持ち、プラス事実上ほぼ全ての生物系魔法使用可能という非常に恵まれた身分。

 天才魔法少女なんて呼ばれた事もあったくらいだ。


 しかし本人は治療術研究会のようなエリート系研究会に属さずこんなイロモノ研究会で活動中。

 理由は『治療魔法は有用だし感謝もされるが儲からない』からだそうだ。

 あそこの治療院はいい人すぎてあまり金を取らないんだよな。

 おかげで俺を含む付近の人は色々助かっているけれど。

 俺もちょっと調子悪くなるとすぐミド・リーの親に見て貰うし。


 この3人が錬金術研究会の活動メンバーだ。

 俺を除き変人女子ばかり。

 普通の神経の男子なら真っ先に逃げ出しそうな環境だ。

 事実他の会員は幽霊会員で姿を見せない。


 昨年はそれでもアキナ先輩の美貌に騙された男子会員が数人いたそうだ。

 そのうち1名がアキナ先輩に材料採取のため股間をスマッシュされかけたらしい。

 幸い辛くも脱出して無事、身体的後遺症は残らなかった模様。

 心の傷はどうだか不明だけれどな。

 なお事件の存在は辺境伯の爵位でもみ消したとの噂だ。


 これだけだとこの研究会に所属する利点は無い。

 しかし拠点である摂理実験準備室には鉱物から動植物由来のものまで材料資材が豊富に揃っている。

 なおかつ錬金術研究会はこの資材をある程度自由に使ってもかまわないらしい。

 そんな資材や素材のために仕方無く俺は在籍したわけだ。

 各種金属板とか鉱石類とか探し集めるのは困難だしさ。

 それにミド・リーもいるから多少は気が楽だし。


「ミタキ君、そういう訳だから材料の提供をお願い出来ないでしょうか」

「牧場でも行って牛の精液でも採取してきて下さい」

「水銀は危険。でも有能な材料」

「今日は標準的な薬草から錬成スタートよ!」

 こんな感じで変人3人がそれぞれ怪しい研究をやっているのがここの日常風景。


 そんな中でまず俺はやったのは資材棚を漁って有用資材を探す事だ。

 その結果、そのまま使える材料はあまり無い事が判明。

 精製済みでそのまま使えるのは各種金属板くらい。

 とすると色々やって試薬だの材料をつくらなければならない。


 まずは基礎的試薬の生産からはじめるのが正しいだろうと俺は考えた。

 取り敢えず食塩水を仕切って電気分解すれば水酸化ナトリウムは作れる。

 あれは色々使えるから作っておいた方がいい。


 電気分解の電源は基礎的なボルタ電池を直列で何個か繋ぐのが簡単だ。

 でもあれは起電力がすぐ落ちるからダニエル電池の方がいい。

 なら硫酸が絶対必要になるけれど、そんな試薬はここには無い。

 でもどのみち硫酸はあると便利だし作るべきだ。

 硫酸を作る方法としては、今ある材料だと硫黄と硝石から作るのが一番楽かな。

 硫酸銅水溶液は胆礬があるから水に溶かせばすぐ出来る。


 他に簡単に出来そうなものと言えば……植物の色素でリトマス試験紙みたいなものは作れるかな。

 売り出して儲かるような代物では無い。

 でもここ実験室で俺が使う分には重宝するだろう。

 そう言えば試薬を溶かすためのアルコールも純度が高いものが欲しい。

 家の店で賞味期限切れの酒を貰ってきて、蒸留して作ればいいか。


 そんなこんなでここでの俺の時間は現在、基礎的な試薬作りに費やされている。

 傍目で見るとボコボコしている不透明なガラス容器を見つめている状態だ。

 まあ研究会の他の皆さんも見た感じではやっている事はほぼ同じ。

 これじゃ他の会員も集まらないよな。

 華も何もない活動だから、変人でもない限り興味を持たないだろう。

 まあ変人は3人もいれば充分だけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る