第15話 世界が笑顔で満ち溢れますように
ふわり、ふわり。
ふわり、浮かんでいる。
立っているのだけれど、でも浮かんでいる。
なんだろう。
この身体。
どこに……わたしは、どこにいるというのだろう。
精神世界?
生きているのか。
もう死んでいるのか。
もしかしたら、ここが黄泉の国だろうか。
どうであれ、訪れるものはなにも変わらないのか。
だって、生きているのだとしてももうすべてが消えてしまったのだから。
宇宙に漂う、たった一つの孤島さえも。
いつの間にか、沼のほとりに立っていた。
歪んだ時空。どんより暗い虹色の空。その遥か下の鬱蒼とした木々の茂る沼のほとりに、静かに立っていた。
しばらくそのまま立っていたが、不意に左腕に着けている真っ赤なものを外すと、沼へと放り投げていた。
ちゃぽん。
幾重もの波紋の広がる中心を、ゆらゆらとその赤いものが沈んでいく。
それからどれだけの時間、そこに立ち尽くしていただろう。
足を前に出していた。
還ろう。
還るんだ。
そんな言葉を胸に呟きながら。
戻るべき場所へと戻るために。
ちゃぽん。
自身もその沼の中に身を沈める。
ゆらゆらと揺れてがら身体が沈んでいく。
暗くなる。
水面が、どんどん遠くなる。
溶け始めていた。
それは肉体であるのか、魂であるのか、もうよく分からないのだけど、少しずつ溶けていた。
溶けながらゆらゆら沈み、ごとり、やがて底にまで落ちた。
ほとんど光の差し込まない、濁ってなんにも見えないところだけど、怖くもなんともない。むしろ不思議な平穏、やっと眠れるのだという安堵があるばかりだった。
もう、まったく感覚がない。
最初からそんなものなかったのかも知れないけれど。
感覚はまったくないけれど、周りの微かな流れに身をまかせて腕を広げ、大の字になってみた。
こぽり、こぽり。
小さな水泡がいくつか震えながら上がっていく。
なにが詰まっているのだろうな、この泡の中には。
まあ、いいや。
眠たい。
とっても、眠たいな……
襲う強烈な眠気にまどろみながら、思っていた。
わたし、
世界を、守ったのかな。
宇宙を、守ったのかな。
一時しのぎのことに過ぎないかも知れないけれど。
でも、いいよね。
わたしはもう、いいよね。
だって神様なんかじゃないんだから。
ただの泣き虫の女の子だったんだから。
またいつか戻れるのかな、そんな自分に。
そんな日々に。
大丈夫。
戻ればきっと、みんながいる。
願えばきっと、みんがないる。
願えばきっと、みんな笑っている。
だからわたしは願うんだ。
みんなが幸せになりますように。
世界が笑顔で満ち溢れますように。
そう。
楽しい日々が始まるんだ。
だから待とう。
信じて。
それが何十億年の後であろうとも。
それは宇宙の一瞬なのだから。
だから目を閉じて。
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