第14話 神でないならば

 宇宙。

 真っ白な光にすべての物質は溶けて、アサキの意識は、無限に広がる宇宙そのものになっていた。

 広大な時空が自身であり、一点凝縮されたマクロが自身であった。

 無限空間記憶層アカシツクレコードが記憶であり頭脳。それはすなわち、輪廻も含めすべての因果を理解することに他ならなかった。すべての過去を知ることに他ならなかった。物理どころか概念分岐という可能性の無限を、一文字に理解することに他ならなかった。

 宇宙創生よりの時空内全座標における過去を、全座標における陽子の流れを、すべての物質の陽子減衰の流れを。

 自然空間における歴史を。

 文明の築かれた歴史を。

 全宇宙にかつて存在した全生命の記憶。原初生物すらも例外なく。

 すなわち涅槃。

 そのすべてを理解していた。

 宇宙と時の流れとは、肯定を否定し否定を肯定するものであるという真理を。

 確かにすべては真実だった。

 宇宙の寿命が近いことも。


 広大なこの空間、無限の時が宇宙であり、上下、心や闇もまた宇宙である。そんな概念と化したまま場所も時も分からずただ意識を存在させているうちに、ふと光が見えた。

 それは、希望ナディアであった。

 ナディアの意思は語り掛ける。


 神である、と。

 あなたは神であった、と。

 神は敗北するはずもなく、すなわちわたしは神ではなかった、と。


 なんと小さなことにとらわれた思考であったことか。二千億もの時を生きた存在が。

 身体をなくした、いや宇宙全体を身体とした状態で、無を漂わせながらアサキはそう思っていた。

 でも、それはそれで良いのかも知れない。小さくても。

 けれど間違っている。

 わたしは神じゃない。そんな力は欲していない。

 と、それはアサキの本心であった。

 でも、ナディアはなおも語るのだ。


 神でないならば神以上だ、と。

 だが、わたしには分からない。それは果たして、ゆるされざる存在なのか。導く存在であるのか、と。

 わたしには、もう、分からない。分からない。分からな……い。


 白く弱い光が闇から消えた。

 ナディアの意思は、無限空間記憶層アカシツクレコードにおける過去のみの存在と化した。

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