第08話 その一足が道となる
カズミの拳がツヴァイの腹へめり込んで、どおん、と重たい音と共に振動の衝撃波が拡散するが、さらにその瞬間、どおん、もう一発。今度は左の拳がめり込んで、振動衝撃音に厚みを加えた。
さらに一発もう一発、とカズミは重たい拳をツヴァイの身体へと叩き込む。
殴り続けているうちに、奏でる音が変わっていた。
衝撃の重たさはそのままバキリボキリと骨の砕ける音が加わっていた。肉が潰れて裂ける音が加わっていた。
ツヴァイの身体が潰れている? 砕けている? それもあるが、それだけではなかった。
殴り付けているカズミの拳が砕けているのだ。
いつの間にか指の皮膚がなくなっており、血にまみれてひびの入った骨が見えている。
殴り付ける都度、ツヴァイの衣服に血が拭われて骨が白くなる、だがすぐにじわり滲んで赤く染まる。
カズミは、痛みなどまるで感じていない表情で殴り続けていたが、やがて手を休めると、自身のひびが入った血みどろの拳を見て苦笑した。
「おんなじだな、あたしも、治奈と。……やっぱり、アサキの力はすげえんだな。凡人にゃあ過ぎるか」
アサキの力とは、つまりアサキの魔力である。
魔法使いは、魔力によって肉体能力を向上せることが出来る。このような凄まじい破壊力は、つまりはそういうことであった。
強大な力の反発に耐えうる能力がなく、その歪みが自らの破壊という凄惨な状況を招いているのだ。アサキの本来持つ魔力の、ほんの一部しか分け与えられていないというのに。
「不満ならば、渡せ!」
アインスの右手にある白い光の剣が、カズミのいた空間を薙いだ。もうそこにカズミはいなかったが。
「冗談コロッケだ」
紙一重で避けていたカズミは、避けながらぶんと身体を回す。
アインスの顎へと、後ろ回し蹴りが作烈。首がもげるのではないか、というくらいの凄まじい衝撃音と共にアインスの身体は空中高く打ち上げられていた。
実際にもげたのは、カズミの足であったが。
自ら放った打撃に耐えられず、右の足首から先が完全に消失していた。
カズミはちらり足元を見るが、自分の足がなくなったというのにさして気にした風もなく、
「さっき、あたしにとどめを刺さずに去ろうとしたけど。……お前らじゃあ、吸収しきれないからだろ? あたしの中の、アサキの魔力を」
問う。
ふらふらと片足立ちをしながら、足のちぎれた痛みをまったく感じていないのか薄い笑みさえ浮かべて。
問いに対して、すぐさま無言の返答があった。
また背後から、今度はツヴァイが飛び掛かったのである。アサキの魔力が込められた凄まじい打撃を浴び続けて、裂かれ砕けてボロボロになった身体で。
カズミは、ふんと鼻を鳴らすのみで動かない。
振り返らない。
ただ、肘から先を上げただけだった。
それだけで、背後から襲おうとするツヴァイの顔面がぐしゃり潰れていた。頭部が粉々に吹き飛んでいた。
カズミの裏拳だ。肘の回転と手首の返しで手の甲を叩き付けたのである。
さすがに頭部を失ってはたまらず、ツヴァイの胴体はその場に崩れた。
カズミは自分の右腕を見ながら、またふんと鼻を鳴らした。
いまの裏拳により、手首から先がなくなっていたのである。
破壊力は変わらず圧倒的であるというのに、魔力への反発耐性がどんどん衰えているため、変化見て取れるほどに身体が壊れやすくなっていく。
どうであれ、右手を失う運命には変わりなかったようであるが。
直後、ドライが振り回した白い光の剣で、カズミは右肩から先を落とされていた。胴体を両断する勢いのひと振りを、片足ながらもなんとかかわしたものの、切っ先を避けきれなかったのだ。
「丁度いいハンデだよ!」
眉と唇を釣り上げて、残る左腕だけで戦い続けるカズミであるが、その左の拳も皮膚が裂けて砕けた骨が見え機能しているのが不思議なくらいボロボロであった。
それでも気にせず構わず全力でドライを殴り付けると、ガキリと嫌な音がして手首が折れた。
「こんなんもういらねえや!」
腰と腕とを激しく振ると、折れた左手があっさりちぎれて飛んだ。
言葉は投げやりであったが、カズミはただ自らの手をもぎ取ったわけではない。左拳が唸りを上げて飛びながら一瞬にして巨大化し、アインスとドライをまとめて叩き潰したのである。
そして起こる大爆発。
ザーヴェラーの
「たいしたことねえなあ、てめえら」
自らを破壊しながら、両腕のないカズミは身体をふらつかせながらニタリと笑みを浮かべた。
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