第02話 ヴァイス・シュヴァルツ

「シュヴァルツ?」


 カズミは、険しい顔で視線を左右に走らせた。

 名を呼んだというよりは自分への確認だろう。シュヴァルツ自身は、そう名付けられていることなど知らないのだから。


 アサキも、やはりシュヴァルツを感じていた。

 膨大なエネルギーを、先ほどやりあったあの冷徹な気配を、感じていた。

 でも、間違いなく倒したはずなのに。

 それなのに、一体なんだ、この気配は。闇に包まれたオーラは。

 どこにいる?


 ヴァイスは、青白いエネルギーの触手に背後から貫かれたまま、悲鳴も身悶えもない。もともと表情がないので、生きているの死んだのかも分からない。


「ヴァイスちゃん……」


 アサキはすぐに助けたいとは思うものの、この状況、迂闊には動けなかった。敵が、シュヴァルツが、どこに隠れているのかが分からないからだ。

 でも、それはすぐに分かった。

 ヴァイスのすぐ背後に、魔力の目を凝らさなければ分からないほどの透明なエネルギー体が立っていたのである。

 その姿は、やはりシュヴァルツであった。

 遠隔から攻撃したのではなく、姿の見えないシュヴァルツがヴァイスの背後へと忍び寄って揺れる炎で刺し貫いたのだ。


 シュヴァルツは単身、単体だ。

 蜘蛛とも至垂とも融合しておらず、アサキたちが初めて遭遇した時と同じ黒い衣装に小柄な身を包んでいる。

 分離したのか?

 いや、違う。

 至垂を完全に取り込んだのだ。

 渦巻くエネルギーの凄まじさで、アサキにはすぐ分かった。


 シュヴァルツはにやり笑うと、手に握った揺らめく炎をヴァイスの背中へとさらに押し込んだ。


 ぐ、

 ここで初めて、ヴァイスが反応した。

 微かな呻き声を発した。


「おかしいだろ! 互いを攻撃することは、出来ないんじゃなかったのかよ!」


 カズミが怒鳴る。


 確かに、以前ヴァイスはいっていた。

 惑星のAIが作った疑似人格であるヴアイスシユヴアルツの、作られた目的は意思を競わせて正解を導くことのみにある。

 お互いを傷付けることは出来ない、と。

 だから実際、二人がはからずも戦闘になった時には攻撃が弾き合っていたではないか。


「あたしは、お前のこと好きじゃねえけど!」


 カズミは舌打ちすると、私服姿のまませめてナイフだけを両手に握って、身を貫かれているヴァイスへと駆け寄った。

 回り込んで、まるで幽霊のように透明なシュヴァルツのいやらしい笑みを浮かべた顔を睨み付けた。


「いま助け……」

「待って! 様子が変だ!」


 アサキがなにかを察して叫んだ瞬間、真っ白な中にすべてが包まれていた。

 それは爆発であった。

 突如、どこからか激しい爆発が起こり、すべてを真っ白に包み込み、そして爆風がすべてを吹き飛ばしたのである。

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