第11話 謝らないで

 シュヴァルツが消えただけではない。アインス、ツヴァイ、ドライの三人の姿も、どこにもなかった。


 残るは静寂であったが、その静寂はすぐ広島弁によって破られた。


「あいつらすぐ逃げ出しよったけえ。なにがしたかったんじゃろなあ」

「分かんねえよ」


 カズミがいつもの乱暴口調でぼそり。ちょっと間を置いて、言葉を続ける。


「まあ、だれをぶっ倒してくれたのは、ありがたいけどな。だいたい、アサキが甘すぎなんだよ。……ひょっとして同じキマイラとして、仲間意識でも持ってんじゃねえだろうな」

「犯した罪は許せないよ! どんなに憎んでも、憎み足りない! ……でも、だからこっちも生命を奪うというのは、違うでしょう? やっぱり、生きて償うべきだと。わたしは、そう思ったから」


 尻すぼみ。最後はなんだか元気のない声になっていた。

 申し訳ないような、悲しそうな、苦しそうな、なんとも複雑な表情になっていた。


 と、突然、ぱんと音が響いた。

 カズミが自分の頬を両手でひっぱたいたのである。


「ごめん」


 手を下ろしながら、アサキへと小さく頭を下げた。


「あたし、酷いこといっちゃったね。キマイラが、とか。そんなの、関係ないのに。お前は単に、底抜けに優しいだけなんだって、分かっているのに。……ごめんなアサキ」

「え、あっ、謝らないでよう。わたしの方こそ、申し訳ないと思っている。確かに、考えが甘いと思うよ。それが、みんなを危険にさらすことだってあるのにね。だから本当は……」

「うああっ!」


 治奈の叫び声が、アサキの言葉を吹き飛ばした。


「どうしたの? 治奈ちゃん」


 治奈のびっくりしている顔を見たアサキは、視線の先へと自分も視線を向け、た瞬間に、自分もびっくりして目をまんまるに見開いていた。


 至垂の姿が、見えないのである。

 首を落とされて死んだはずの、至垂の身体がなくなっていたのである。

 巨大な蜘蛛と合体した、あの大きな身体が。


 そもそも、首を切られて死んだことが幻影だった?

 アサキが何度も見せたような、魔法だった?。

 いや、地に出来ている大小の陥没が、そうではないことを示していた。間違いなく、至垂の巨体はここに倒れていたことを示していた。


「な、なにが……どうなってんだ? って、お、おい!」


 カズミの肩に、アサキが無言でぶつかってきたのである。

 アサキの身体は、そのままもたれるようにカズミへと体重を預け、ずるり地に倒れていた。


「ど、どうしたんだよ! アサキ! おい、アサキ! アホ毛! おい!」


 目を閉じたまま、赤毛の少女は眠り続けていた。

 カズミのどんな呼び掛けにも応えることなく、眠り続けていた。

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