第03話 デュエル
「はああ?」
わけが分かんねええええ。
と、口元あんぐり目を白黒のカズミ。
その前に、通せんぼするように立つアサキは、無言のまま右腕を高く上げた。
頭上から、剣がくるくる回りながら落ちてくるのを、顔を前に向けたまま柄を見もせず掴み取った。
さらに一歩、前へ出ると、腰を少しだけ落とし、
「おい、変身もしねえのかよ……」
カズミが、不安そうに小さな声を漏らした。
アサキの服装は、ティアードブラウスに膝丈タータンチェックのプリーツスカート。先ほどからの、普段着のままだ。
魔道着は頑丈な防具であり、戦闘服でもあるため動きやすい。
また、体内の魔力伝導効率を整わせる働きがあるので、より強力な魔法を使うことが出来るし身体能力も向上する。
そんな魔道着を着ていても、これまでただ一人の
魔道着は至垂だって着ているし、それに至垂はもとの強さに加え巨大な蜘蛛と合体しているのだから強いのも当然だ。
ということを考えると、一人でしかも生身で戦うなど、なにが狙いか分からないがあまりにも無謀なのではないか。
そうした不安、心配からの、カズミの言葉だったのだろうが、しかし、
「必要ない」
アサキは、一言で突っぱねた。
あまりににべないかなとも思い、笑みを浮かべて言葉を足した。
「大丈夫。もう、この身体にも慣れたから」
と。
大丈夫かどうかなど分からない。
でも、アサキはあえてそう強がってみた。
だって逃げ腰じゃあ、一人で戦うといってみせた意味が、そもそもないじゃないか。
「必要ねえ、って、わざわざ無茶する必要は……数人で卑怯とかいうなら、あいつだって化け物と合体してんだぞ!」
不満げに食い下がる、というか当然の理屈を主張をするカズミであったが、その肩に、
「カズミちゃん」
治奈の手が、そっと置かれていた。
見ると、治奈は小さく横に首を振った。アサキの気持ちを察しろ、ということだろう。
カズミは、ふんと鼻から息を吐いた。
いわれずとも分かってはいるのだろう。友、アサキの、考えを。
「信じるからな、アサキ。……あっさりやられたら、承知しねえぞ。スカートめくって泣かすからな。泣いてるとこ写真に撮って笑うぞ」
「分かった。ありがとう」
アサキは背後にいるカズミへと、振り返ることなく礼をいった。
無茶、いや冒険に対して聞き入れてくれたことに。
アサキは、自分の戦闘力に絶対的な強さがあるなど思ってはいないし、そうした強さへの憧れも興味もない。
ならば何故、あえて一人で戦うなど、ことさら強さをアピールしようとするのか、ということだが、別段なんという考えでもない。
もしも、みんながいうように、自分に強い力があるのであれば、あえて不利な条件下で圧倒してみせることにより、至垂の戦意を削ぎ、しいては無駄な殺し合いをせずに済むのではないか。
そう考えただけだ。
わたしの仲間たち、わたしの両親を、殺した罪は消えない、許せない。けど、それはそれだ。
こんな状況だろうとも、いやこんな状況だからこそ、復讐心にかられて生命の奪い合いだなんて、したくなんかないから。
わたしが強いかどうかなんて、戦ってみなきゃ分からないし、だから、一か八かにはなってしまうのだけど。
でも、こんな死の世界で、せっかく生きているのに、倒して終わり、殺して終わり、だなんてしたくない。
いや、世界は関係なく、どうであれ、誰かを殺すだなんて嫌だ。
でも、わたしだって死ぬわけにはいかない。
だから、そうしないためにも、そうならないためにも、ここで決着を付けておく必要があるんだ。
だから……
アサキは、身を低くしたまま剣を握る手に力を込める。
金属製の、ずっしりとした質量を持つ洋剣を。
先ほど手にしていた光の剣から持ち替えたのは、その方が都合がよいからである。
光の剣は、咄嗟のことに魔力で作り出しただけ。形状維持にも魔力を使うため、効率が悪い。
物理的な武器に対しエンチャントを施して、より鋭く、より軽くさせた方が、遥かに戦いやすいし、長期戦にも対応出来る。
あえて不利な状況に身を追い込むとはいっても、剣がすぐに消失していては話にならないというものだ。
アサキは腕を上げ、剣を水平に持った。
早速、そのエンチャントだ。
青白く輝く左手のひらを翳すと、その手を切っ先へと滑らせていく。
剣身全体が、薄青白い光に包まれていた。
アサキと巨蜘蛛から生えた至垂の身体とが、改めて向き合った。
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