第02話 状況悪化、したはずなのに
上からなにやら気配の片鱗を感じた瞬間、アサキは自ら倒れ横へ転がっていた。
一瞬前まで立っていたところに、なにかが突き刺さっていた。
それは、光。剣にも似た、真っ白な光のエネルギーであった。
ごろり転がった先のその顔へも、光の剣というべきエネルギーが音もなく突き出される。
アサキは転がりながらも器用に、手にしていた自分の洋剣で弾いた。
運もあっての紙一重、ではあったが。
弾いた勢いによる反発を利用して、その攻撃から距離を取りつつ立ち上がった。
カズミが、「くそ!」と怒鳴りながら背後へと跳ねて、アサキの横に着地すると、素早く視線を左右に走らせながら、二本のナイフを構え直した。
「状況が、理解出来んのじゃけど」
治奈も、アサキの反対側の隣に立ち、槍を構えながら目の前に立つ者たちを睨んだ。
黒い服を着た、三人の少女たち。
この三人が、アサキたちを突然襲撃した者の正体であった。
これで、謎の襲撃者である黒い服の少女は四人に増えたことになる。
一人を相手でも苦戦していたというのに、もしも加勢した三人の実力が最初の一人と同等だとしたら、苦戦絶望的どころではないだろう。
三つ子の姉妹であろうか。
というほどに、三人は同じ顔、同じ髪型をしている。
服装までが、まったく同じだ。
最初の一人目だけ顔立ちや体型が違うが、それでも似てはおり、多胎児ではないが姉妹ではあるということかも知れない。
最初の一人目の方が、とても幼く、そして顔の造形が整っている。
比べて後からの三人はどこか色々と削げ落ちている。可愛らしくはあるものの地味な、少し老けた印象を見る者に与える。まるで、最初の一人の劣化コピーのようでもあった。
さらに異なるところといえば、まずは服だ。
造形整った最初の一人目は、黒くふわふわしている生地を身体に纏っている。
対して三人は、どちらかといえばぴったりした、皮素材にも見える黒い服を着ている。
また、最初の一人は素手による攻撃であったが、三人の手には白く輝く光の剣が握られている。
なにはともあれ、このように一人にさえ苦戦していたのが四人になってしまった。
それは絶対的不利どころではない状況といえたが、だが、
「うあああああああああ!」
アサキは、まったくひるんでいなかった。
躊躇することなく、四人へと向かっていた。
叫び声を張り上げながら。
剣を振り回しながら。
この逆境に、まったく絶望など見せることなく。
ただ、活路を切り開くため必死に。
一番近くにいた黒服の少女が真っ白な光の剣を身構えるが、アサキは気持ちの勢いに身を任せて身を突っ込ませると、右手の洋剣で光の剣を跳ね上げていた。
ほとんど同時に、左足を軸に後ろ回し蹴りを放つ。
胸への強烈な一撃に、黒服の身はたまらず後ろへと飛んでいた。
モーションの大きな技を繰り出したその隙を、三人組の一人が狙う。アサキの頭部へと、光の剣を打ち込んだのである。
だけどアサキは予測していた。防御障壁の魔法陣を左手に張って光の剣を受け止めつつ、軽く身体を屈めて、膝を伸ばしながら叫んだ。
「巨大パアアアアンチ!」
小柄な身体に不釣り合いな、とてつもないサイズに巨大化させた右拳で、アサキはアッパーカットを放っていた。
ぐしゃり音がして、黒服三人組の一人の身体が間欠泉のごとく打ち上がっていた。
せっかく攻撃を見事ヒットさせたアサキであるが、打撃を上手く相殺して受けたか大きなダメージではなかったようである。黒服は、空中で姿勢を正しながらなにごともなく着地した。
いや、少しではあるが、ふらりよろめいていた。
まったくの無傷ではない。アサキの攻撃は、効いているのだ。
「やるじゃねえかよ、アサキ!」
「ほうよ。うちらも、負けてはおれん!」
アサキが見せたガムシャラな反撃は、カズミたちの心に火を着け、こうして三対四の、全員が入り乱れての戦いが開始されたのである。
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