第09話 夢なんかじゃねえよ
戻った暗闇の中に立っているのは、三人の少女である。
ティアードブラウス、膝丈タータンチェックのプリーツスカート。
赤い髪の毛に包まれた顔は大人になり掛けながらもまだ多分に幼いところの残っている少女、
紺色のジャンパースカートは、ベスト部分が大きい作りで、中には白いブラウスが覗いている。スカートは短いがロングソックスなので露出はあまりない。おでこで左右に分けた黒髪がさっぱりとした印象を与える、
薄桃色のシャツに、デニム生地のミニスカート。
茶色い髪の毛をポニーテールにしており、可愛らしくもあるのだがなんともきつい顔立ちなのが、
「無事で、よかったよ」
カズミは、両腕を回して治奈を抱き締めた。照れくさいのか、ちょっと怒ったような顔で。
でも、照れている割には言葉も態度もなんだか妙に素直だったが。
「カズミちゃんもな。……まあ、殺しても死なんじゃろとは思っとったがの」
治奈も両腕を伸ばして、友の身体を抱き締め返した。
笑みを浮かべながら、十秒ほどもそうしていただろうか。
どちらからともなく、離れると、
「アサキちゃんもな。よく、無事でおった」
今度は治奈が、アサキの身体を抱き締めた。
「うん」
それだけいうとアサキも、治奈に密着して背中に腕を回した。
ぎゅっ、と強く力を入れた。
二人は確かな温もりを感じ合った。
「生きていて、くれた。……カズミちゃんだけでなく、治奈ちゃんまでも。……それとも夢、だったのかな? これまでの、たくさん、辛いことばっかりあったのは、わたしの、夢、だったのかな?」
アサキの目に、涙が滲んでいた。
「夢なんかじゃねえよ」
抱き合う二人の横に立ったカズミが、二人の肩を優しく叩いた。
「治奈とあたしは身体がどろどろに溶けちまって、お前も至垂に首だけにされて頭も半分砕かれていたよな。みんなでそんな夢を見るなんてあるか? それがどうして五体満足なのかは知らねえけど、でも、夢なんかじゃねえんだよ」
「うん。……そうだね」
アサキは治奈から身体を離し、カズミの顔を見ると小さく頷いた。
そうだ。
これは現実。
すべて現実だ。
過去も、現在も、ここでこれから経験する未来もきっと。
リヒトの支部で戦ったことも、第ニ中のみんなや
みな、現実なんだ。
でも、でも……
でも、
「でも、生きて、いた。治奈ちゃん、カズミちゃんは、生きて、いた……生きて、いる。よ、よかった。そっ、それ、それだけでもっ、うくっ、よ、よ、よかっ……」
もう、言葉にならなかった。
アサキのは泣き出していた。
真っ暗な空を見上げて、まるで幼児のように、わんわんと声を出して泣き続けるばかりだった。
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