第12話 世界を、仲間を、救うために
右腕の剣を振り上げ、豪快に叩き付ける。
だがその攻撃は、突然生じた青白い光にあっけなく跳ね返されていた。
カズミが、魔法障壁を張ったのである。
「あたしたちも、死線を潜り抜けて成長してんだよ!」
二本のナイフを構え直したカズミは、たんと軽く飛び込んで建笠へと切り付けた。
ぎりぎりかわされてしまうが、追撃の手を緩めず、右、左、ナイフを突き出し、振り回す。
さらには回し蹴りに、足払い。
舌打ち。
建笠は、防戦一方に追い込まれていた。
周囲でも、同様の戦いが行われている。
アサキの決断を尊重する仲間たちと、至垂を捕らえること最優先の広作班との。
「なあにを仲間同士で、やり合ってんだかなあ」
ははっ、と楽しげな笑みを浮かべる至垂。
みな、バカにされている自覚は、当然あるだろう。
例えこうして笑われずとも。
だって、ヴァイスタから世界を守るべき魔法使いが、お互いを武器で攻撃し合っているのだから。
なおかつそれは、同じ組織の人間たちなのだから。
まだ死者こそでていない。
この争いにおいては。
だが、お互いの能力が高いため、戦いは激しく、カズミたちも、広作班のメンバーも、あっという間に打撲に裂傷酷い状態になっていたが、それでもなお戦い続けていた。
「みんな、やめ、て……や、めて」
悲痛な、か細い、精一杯の、アサキの震える声。
片目を潰され、両腕を落とされ、片足をもがれ、床に俯せている、アサキの心の叫び。
どうして、みんなが戦わないとならない?
おかしいだろう。
「てめえのせいだろうがよ!」
広作班サブリーダー建笠が、ナイフを払いつつカズミの顔面に裏拳を叩き込むと、ちらりアサキへと視線を向けて、満面の怒気を言葉に吐き捨てた。
ぜいはあ、大きく肩を上下させている。
建笠だけではなく、いまこの争いを争っている全員が。
建笠だけでなく、仁礼以外の広作班メンバーはみな、驚きと、それ以上に苛立った表情になって、大きく呼吸をしていた。
舐めていた中学生たちに、互角以上に渡り合われているためもあるだろうか。
広作班は選りすぐりのエリートで、なおかつ高校生、地方の中学生魔法使いに比べて体力魔力における大いなるアドバンテージがある。なおかつ、目の前にいる中学生魔法使いたちは、立て続くキマイラとの戦いでみな疲弊している。ややであろうとも押されているというのは、広作班にとって屈辱以外のなにものでもないのだろう。
カズミが自分でいっていた通り、死線を抜けて成長したということか。それとも、友を思う気持ちが原動力ということか。
いずれにせよ広作班も、押されているとはいえ攻撃はしっかり受け流しており、つまり長引くほどに双方とも見る見る疲弊していくのであるが。
それが誰を利するか明らかであるというのに。
でも、引けない。
片や、世界を守るために。
片や、世界を守るなど当然のこと、まずは小義、仲間の必死な思いをこそ救済するために。
白銀の魔法使い至垂は、見世物小屋の見物と洒落込んでいたが、ようやく飽きがきたか、背を踏み付けているアサキへと視線を落とした。
「広作班のいう通り、本当に続々とここへ、魔法使いたちが集結しようとしてるみたいだな。まあ、だからこんな茶番をやっていられるのか」
魔法使いの集結。
それを至垂は、自らの魔力で感じているのか。
それとも通信で情報を得たか。
いずれにせよ、先ほど仁礼寿春が掛けていた降伏勧告の言葉、あれは嘘ではなかったということになる。
茶番、と至垂が一笑に伏したこと、
カズミたちには心外であろうが、広作班からすれば確かにそういう面もあるのだろう。
格下に押されて悔しそうとはいえ余力は遥かにあるわけで、強引であれば幾らでも打てる手はあるはず。そこまではしないのは、ここへ魔法使いが集まっているから、と考えれば辻褄は合う。
むしろ見方を変えれば、これは広作班からの、アサキやカズミたちへの時間稼ぎというプレゼントであったのかも知れない。
サブリーダー建笠の言葉通りに黙ってみていたら、もうアサキは絶命していたかも知れないのだから。
意図的なのか、単なる結果であるのかは、仁礼寿春と建笠武瑠、二人の心の中を覗けなければ分からないことであるが。
だけどその意図的か結果的かの時間稼ぎも、これで終わりのようであった。
「見下ろすのも、首が疲れるなあ」
銀色の魔法使い至垂は、そういうと軽く腰を屈ませた。
血に塗れた赤い魔道着と同じくらい赤い髪の毛を掴んで、高く持ち上げた。
両腕のない、大腿骨を分断されて太ももが薄皮一枚でしか繋がっていない、身体中を滅多刺し、滅多切りされた、生きているのが不思議なくらいである、アサキの身体を。
壁に押し付けると、なんの躊躇もなく、胸に剣を突き刺した。
至垂はアサキの胸を貫いて、壁に留めた。
肺を突き通されて、またアサキの口から、ぶふっと血が噴き出した。
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