第09話 殴って欲しかった

 統括リーダーを通して、リヒト所長にすべて報告した。


 みちおうしましよう、生き残った二人は。



 ターゲットにされた少女を救えなかった責任感の大きさから、しろの精神が崩壊し、ヴァイスタ化したことを。


 ヴァイスタ化した雉香を、昇天させたことを。


 きっかけを作ってしまった自責の念から、みちくもにまでヴァイスタ化が起きたことを。


 慶賀応芽が、混乱のあまり冷静な思考を保てず、ただヴァイスタ化を阻止しようと、雲音に精神砕きの術法を使ってしまったことを。



 その翌日、応芽だけが所長に呼び出されて、色々と聞かれた。

 問われるがまま、詳しく説明をした。


 また、反対に、所長からも話を聞かされた。


 絶望から人間がヴァイスタ化することは、ほぼ事実であろうと、既に分かっていたことらしい。


 魔力の高い者、つまり魔法使いマギマイスターがヴァイスタになるということも、既に分かっていたらしい。


 つまり今回の事件は、リヒト首脳陣や科学班の者からすれば、衝撃的なものでもなんでもなく、確実のが示す確率範囲が切り上げされた。というだけのことであるらしい。


 応芽が混乱のうちに施してしまった、魂砕きについては、その場において不適切な判断ではない、とされ、特に責められなかった。


 リヒトは単に、ヴァイスタ化しかけた人間の細胞構成などを、分析研究したかっただけではないか。

 とも思ったが、自責の念と自暴自棄から、応芽は、それ以上考えることをしなかったし、考えることも出来なかった。


 リヒトの幹部である応芽たちの父からも、辛かったなといわれ、頭を撫でられただけで、責められなかった。他になんにも、いわれなかった。


 いって欲しかった。


 応芽は。


 父から、いって欲しかった。


 苦悩の言葉を吐いて欲しかった。


 糾弾して欲しかった。


 傍から理不尽であろうとも、妹を殺した自分を、殴って欲しかった。


 怒って欲しかった。


 わめいて欲しかった。


 悲しんで欲しかった。


 泣いて欲しかった。


 神にすがって欲しかった。

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